こんにちは。藤原さとです。
今年3月、テキサス州オースチンで開催された全米最大の教育イベントSXSWeduに参加してきました。
SXSWは“サウスバイサウスウエスト”と読み、約30年前、1987年にミュージックフェスティバルからスタートからスタートしました。94年にはフィルムフェスティバル、98年には世界に先駆けてインターネットとデジタルのコミュニティを取り込み、現在の形に変化してきました。近年、環境問題を取り扱うSXSW Ecoなどとともに教育をテーマとするSXSWeduもファミリーに加わりました。以下、日本語版のSXSWの紹介ページがありましたので、そこから抜粋します。(http://sxsw.jp/about-sxsw/)
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(SWSWの)その核=COREは常にクリエイター、イノベイターがキャリアを広げるために世界中から集い、お互いのアイディアを学び合い、共有しあうためのプラットフォームとして役割を担うことにあります。
年毎に規模が拡大し、今日では10日間でのべ10万人、約380億円の経済効果をもたらす、世界最大級のビジネスフェスティバルに成長しています。
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さて、このSXSWedu ですが、日本からも参加者が沢山います。今回、EdTech Japanから日本の第一線で活躍されてるLife is Tech! ・Kocri・schoolTaktのみなさんがExpoに出展しました。また、Sony Global EducationがKOOVという新しいロボット教育キットを発表しました。
(Expoの様子)
私自身は、EdTech Japanを主催し、SXSWeduでの日本のプレゼンスの向上に尽力されているデジタルハリウッド大学の佐藤 昌宏先生にお声掛け頂き、SXSWeduのイベントの一つである”EdTech Japan to the World”のパネルの一人として、アメリカとの比較の中で、日本の教育の良い点、そして日本の教育活動がどうやって世界に貢献できるかについて僭越ながらお話しさせていただきました。
(EdTech Japan to the World)
<SXSWeduでのカンファレンス>
さて、SXSWeduでは、目玉スピーカーによるkeynoteや、面白い取り組みをしている人によるFeatured Sessionなどのカンファレンス、そして教育にかかわる企業や団体が出展するエキスポ、そしてその他のスペシャルイベントで構成されますが、今回下記の2つのkeynoteと1つのFeatured Sessionを簡単にハイライトします。
まずすごく面白かったのが、ゲームデザイナーのジェーン・マクゴニガルによるキーノート。双子のお姉さんのケリー・マクゴニガルも有名ですね。
彼女は、ビットコインで使われているブロックチェーン技術を教育に応用するとこんな世界が開けるとのプレゼンテーションを実施しました。”Ledger” というその未来型教育サービスでは、自分の学んだことをedublockというブロックに入れ込んでPeer to Peerでやり取りすることができます。個人だけでなく、大学や企業や地域もedublockを発行することができ、当然換金も可能。edublockは誰が作成し、誰の手にいつ渡り、どんな改変が行われたかを記録していくため、それを持つことで、自分の能力を表明することができ、企業との雇用マッチングもできます。まさにLedger、台帳のようなものになります。そんな大学の在り方に挑戦するような内容も含めた非常に斬新かつ衝撃的なプレゼンテーションでした。
もう一つのキーノートは、磁石で単機能の小さな電子回路をつないで電子工学を楽しく学べるオープンソースのライブラリーを提供しているLittlebits CEOのAyah Bdeirによるものです。彼女はSTEAM Student SetをSXSWで発表。すでにLittlebitsの製品は100か国以上12,000の教育者に使われ、楽しく学べるキットとして評価を得ていますが、今回さらに一歩踏み込んで、“発明教育(Invention-based learning)”を教育者の人たちも実施できるようにオンラインコースやガイドを提供することになりました。
日本でも、一部の人に認知されているグーグルの元幹部であるMax Ventillaがサンフランシスコで創立したテクノロジーと融合したマイクロスクール(小規模学校)Alt Schoolは、今回マイクロスクール向けのプラットフォーム“AltSchool Open”を発表しました。
<SXSWeduの意義とアメリカのイノベーション>
ところで、SXSWですが、テキサス州オースチンというそれほど目立たない中規模の1都市でしかありません。でも、今年はメインのSXSW Interactiveにはオバマ大統領夫妻がキーノートスピーチを行い、過去にはイーロン・マスクやフェイスブックのマークザッカーバーグなども登壇しています。上記に含めませんでしたが、今年のSXSWeduはカーンアカデミーのサル・カーンも登壇しています。
(オバマ大統領のキーノート。私は見れていません)
(Kahn Academy Sal Kahn iPhoneで撮ったのでブレててすみません)
InteractiveのほうではJapan Houseが開催され、日本からはロボット学研究者の石黒浩先生、そして、医療の分野に3Dプリンターやバーチャルリアリティ、プロジェクションマッピング技術などを融合させ、手術現場にイノベーションを起こされている杉本真樹先生(こたえのない学校の5月15日のプログラムに登壇いただきます!)を含む多くのアーティストや研究者の人たちが参加しました。
(石黒浩先生 参照元:http://jpnhouse.com/event160422/)
(神戸大学杉本真樹先生 参照元:http://jpnhouse.com/event160422/)
どうして、こうした都市にこれだけの人が世界中から集まるのか。それはやはり、異分野の人が集い、まさにインタラクティブな場を提供することによって、イノベーションが起きるからに他ならないと思います。結局イノベーションは、見ているものを違う角度から眺めたり考えたりすることで生まれるものであり、こうして異分野の人が集うのが一番手っ取り早い。開催期間中はMeet upやパーティなどがあちこちで開かれており、この辺のプラットフォームづくりがアメリカは本当に上手だな、と感心します。
<日本の教育について>
さて、今回、冒頭に述べたように、日本の教育の良さ、そして日本の教育が世界に貢献できること、を分不相応だと思いつつも、できることがあればと、発信してきました。
私が伝えたのは下記の点です。
- 1) OECDのPISA2012によると日本の平均得点は世界でトップレベル。(OECD加盟国の中で数学的リテラシー2位、読解力1位、科学的リテラシー1位)
- 2) エンターテインメントと教育の融合がみられ、たとえば、小学生が読むドラえもんの本では、超ひも理論やiPS細胞、最先端の投資理論などを子どもでも楽しめるようにアレンジして説明がされている。また歴史や古典などの殆どがアニメや漫画で楽しめる。たとえばアダムスミスもマルクスもルソーも全部漫画で読める。
- 3) OECDのハイスコアを支える基礎学習の優良コンテンツが豊富である。公教育が優れていることに加え、例えば、公文は、全世界49か国で400万人以上の生徒を持ち、アメリカでも生徒数は35万人。モチベーションを保ちながら自主的に勉強できるプログラムが評価されている。これは一例で、他にも優良なドリルや学習コンテンツが豊富である。
特に個人的には、2)のエンタテインメントと教育の融合は今後日本の強みになるのではないか、なっていけばいいなと思っています。アメリカにもキラーコンテンツがあるのですが、たとえば、ディズニー映画のエルサが算数を教えてくれたり、、というコラボレーションはあまりありません。教育コンテンツに出てくるキャラクターはいるのですが、なんとなく「教育めいて」いて魅力が薄いのです。著作権の問題もあるかもしれませんが、「教育」と「エンタテインメント」は別であるという潜在的な価値観がアメリカ(というか欧米)にはあるように思います。こういうところで、日本のロールプレイングゲームや漫画などの世界観が教育に入って行って、それが裏側のビッグデータなどとつながってきたりすると面白いな、とぼんやり思います。こういうことを“本気”でできそうなのは日本のような気がします。
1), 3) も詰め込み型学習などと自虐的に揶揄されることも多いですが、国語・算数(数学)などの基礎的な教育がしっかりしているというのは、日本の良さであり、誇るべき部分です。しかも一部のアジア地域のようにエキセントリックなことをしなくても、OECDでこれだけのハイスコアをたたくというのは本当に素晴らしい。思考力・論理力・プレゼンテーション力・クリエイティビティが弱いといわれていますが、いまどんどん変わろうとしています。こうした基礎の上に立脚し、こうした力がつくと無敵なはず。アメリカに住んでいて日本を見ていると、こうした強みに対してもっともっと自信をもっていいと本当に思います。
<最後に>
10年、20年、30年後の学びのカタチはどうなるのか。テクノロジーと教育の関係ってどうなっていくのか。そういうことを考えたくて、今回SXSWに初めて参加しました。
オバマ大統領もキーノートで話していましたが、インターネットテクノロジーの進化・普及やそこから起こるグローバライゼーションは、チャンスであると共に、破壊的なパワーを持ち、混乱も起こします。だったら、私たちは何ができるのか。
月並みな言い方だけど、今は産業革命に匹敵することが目の前で起きているのだと思います。紙と活字印刷が出来た時もこんな感じだったのではないかと思います。録音技術が登場すればコミュニケーションの形も変わる。今、紙の教科書が当たり前のように、将来は変わる、そうかもしれないって思ってまず考えることが必要な気がしています。
テクノロジーの進化やグローバライゼーションは“良いか悪いか”という問題でなく、目の前に起きている現実です。革命には支配層の逆転が必ず伴いますが、それはまさにチャンスでもあり、転落の危機でもあります。
そうした中で、その流れに気付いた人だけがその波に乗るというのももちろんアリなのですが、せっかくなので、みんなで乗り切ろうよ、そんな社会になればいい、そうであって欲しい、とつくづく思うのです。
私も、微力ながら頑張りたいと思います。
<関連ブログ>
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