home > Blog > 藤原 さと > ここだけは真似しちゃいけない!アメリカの教育格差

 

こんにちは、藤原さとです。

 

ポラリスこどもビジネススクール2期も無事終了しました。2期のテーマは「サービス・商品を創る」でした。このプログラムでは、「デザイン」「発明」「サービス開発」と進める中で、それぞれの仕事の共通点や、違いが分かるように、また仕事をいろいろな角度や深さから考えることができるように仕掛けました。

2016年は冬に公立小学校で「菌の営み」に注目し、実際に酵母を育てて、人と菌、菌と菌の関係を探究するプログラムを実施予定です。 春には「医療」をテーマとしたキャリアプログラムをスタートします。楽しみながら、質の良いものを作り続けていきたいと思っています。

さて、前回アメリカのICT教育について書き、今回はアメリカネタから少し離れようと思ったのですが、前回初めてブログを見ていただいた方も多いようなので、今回も書いてみようと思います。(しばらくアメリカネタになるかも・・!?)

今まで、アメリカの教育の現場について私が見たこと、感じた事を書いてきました。どちらかというと、日の当たる部分、良いな、と思う部分を中心にご紹介してきました。

ただ、今回は少し見方を変えて、「アメリカのここだけは真似しちゃいけない!」部分について書かせていただきます。

 

<アメリカの教育格差ってどういうもの?>

 

さて、下記はヒューストン周辺エリアのものです。

赤や緑、黄色の丸と番号が何を示すかわかりますか?

 

Greatschoolsorg.houston

<出所:http://www.greatschools.org/

 

これは、この地域にある学校のレーティングを表したものです。学校は公立そして任意で私立が表示されており、10点が満点で1点が最低です(表示されているほとんどの学校は公立)。つまり、緑が「良い学校」黄色が「平均的な学校」、赤が「平均より劣る学校」です。※

緑の学校が固まって存在し、赤も黄色もなんとなく地域にわかれて分散しているのがわかるでしょうか。

こうした学校のレベルに関する情報はこちらでは公開され、だれでも見ることができます。アメリカでは非営利を中心として、こうした学校の情報をまとめて発信するサイトがあり、yelp!のように口コミ情報も表示されています。

アメリカは州によって多少の違いがあるかもしれませんが、多くの州で基本的に学区制で、その学区に住む限りは、指定の学校に通うようになっています(Magnet Schoolなど例外あり)。つまり、よい学校に行くには、その学区に引っ越しするしかありません。

結果として良い学区域と“悪い”学区域が明確に分かれ、所得の高く、引っ越し可能な人は吸い寄せられるように良い学区域に住むようになるのです。もちろんそうした学区は不動産価格も高く、所得の低い人にはなかなか手が届きません。

 

いままでのブログでお伝えしてきた学校の現状は、「緑の学校」の話です。駐在などで日本人がアメリカに来る場合、まず間違いなく「緑の学校」に入るので、数々のプロジェクト型学習や、オープンで自由なのびのびとした雰囲気は、基本「緑の学校」の話になるのです。

一方、現地のアメリカ人や現場の教師の方から「黄色の学校」のことまでは話を聞けているのですが、「黄色の学校」でも、小学校の高学年から中学校くらいになると、クラスが荒れ、クラス内での喧嘩が発生したりと落ち着いて勉強に取り組むどころではなくなってしまうクラスもあるようです。高校になると拳銃やナイフ、薬物を持ってくる子もいるので、知人の学校では、校内にポリスマンが配置され、透明バッグをもって登校し、教師が毎朝チェックするそうです。これは、「赤の学校」の話ではありません「黄色の学校」の話です。

 

<アメリカの教育格差の原因>

 

こうした教育格差はおよび平均としての学力パフォーマンスの低さはアメリカでも深刻な問題となっています。連邦レベルではOECDのPISAスコアがこうした教育格差によって主要科目で参加国の平均を割り、ヨーロッパ諸国のほとんど、オーストラリア、カナダ、アジア主要国に遅れをとっている状況を憂慮しています。

こうした中で、アメリカは、90年代学校のアカウンタビリティ(説明責任)の議論が浮上し、当時のブッシュ政権のもとで2002年にNo Child Left Behind Act (以下NCLB法:落ちこぼれをつくらないための初等中等教育法)が制定されました。

この法律、、名前は美しいのですが、要は、スタンダードに基づく教育改革の徹底をめざすもので、州の統一テストの実施を求め、その情報を公開した上で、芳しくないパフォーマンスの学校にはテコ入れがなされるというものです。具体的には適切な年次進捗(AYP)のない学校は懲罰が与えられ、最悪の場合学校が存続できません。(余談ですが、その受け皿としてチャータースクールの仕組みがあるので、近年のチャータースクールの増加はこの法律とリンクしています)

こうして実施された州統一テスト※※の結果は公開され、新聞に順位と共に公開されます。

下記は娘の通っている学校のスコアです。テキサス州の場合は、3年生からSTARR TESTという州統一テストが生徒全員に対して、Reading、Math、Writingで実施されます。娘の学校の成績が赤でハイライトした部分、ブルーが州平均です。中間に挟まれているのが、娘の学校のある教育区の平均です。明らかに娘の学校のスコアが優良であることがわかります。(スマートフォンからだと詳細が見えにくいようです。娘の学校のAll Subjects のスコアが97%に対し、週平均が77%、学区平均が87%)

 

schoolscore3

 

次は学校のプロファイルです。人種構成、所得配分、第2外国語の生徒数、特別支援教育(Special Education)対象者の割合が明示されています。こちらも、娘の学校の所得水準が高く、白人割合が多いことが明白です。(娘の学校の白人割合68.5%に対し、州平均は29.4%。Economically Disadvantageの割合が娘の学校が3%に対し、州平均は60.2%です)

 

schooldetails

 

ここまで明確に表示されたら、少しでも経済的に余裕があり、子供の教育をなんとかしたいと思う場合は、優良学区を求めて、引っ越しするというのが当然の親心・・となってしまいます。

これが、“No Child Left Behind”につながるとはどうしても思えません。

さて、この法律の導入の結果はどうだったでしょうか。

結局、PISAでの全体としてのパフォーマンスはあまり変化がなく、且つPISA2012年のレポートでは、Mathは全体としても平均以下のパフォーマンスで、特にベースラインであるLevel2を満たしていない子供の割合が、2003年から改善が見られない、と厳しい指摘を受けています。つまり、教育格差の問題は解消していないということです。他の論文でも、格差の問題が解消しないばかりか、逆に固定化してしまった、という内容のものがあります。

NCLB法の前から、Property Taxによる教育予算の設定など、学区による教育格差は問題となっていたので、NCLB法が教育格差を広げた・・というところまでは言い切れませんが、少なくとも、こうして情報を公開し、競争させて、学校の尻を叩いたところで格差は狭まらなかったとうことは言えるのだと考えます。

 

<アメリカの教育格差から思うこと>

 

アメリカは競争大好き・・の国です。年末読んだ「フェルドマン博士の日本経済最新講義」で、「アメリカには競争戦略だけで、成長戦略がない」という部分があり、「そうそう!」と思ってしまったのですが、例えばヘルスケア・医療の領域でも、「競争させたら医療費が下がるかと思ったら上がっちゃった!」というような冗談のようなことが真面目に起きてしまう国です。

こうやって、とことん地域と学校を競争させることで※※※、競争に負けた地域に住み、そこから脱出する経済力もない層は、「自分たちはダメな地域の平均以下の学校に通っている」という認識を持ったまま成長します。自分の通う学校が世の中で「1点」と評価されたら、どんな思いをするでしょう。先生は、働く場所をある程度選べるのかもしれませんが、黄色や赤の学校に勤務する場合のプレッシャーやモチベーションの維持は、想像するだけでも、本当に大変なことだと思います。

どうやってこの広がってしまった格差を縮めたらいいのか。

アメリカは競争原理が基本の新自由主義の国と言われますが、ビルゲイツ財団や、昨今ではフェイスブックのような成功した企業から多額・・というより巨額の資金が貧困や教育をテーマにして流れてきます。古くはロックフェラー財団に見られるように、「勝者は社会に貢献してこそ本当の勝者の証だ」という感覚というか文化があります。

子供たちも小さいころからボランティア活動、寄付活動、家庭によっては教会の慈善活動などに積極的に携わります。教育の世界では、トップレベルの人材がTeach for America、KIPP、Kahn Academyのようなところに流れていきます。

でも、「勝ち組」「負け組」の論理は変わりません。インターネットの発達によるICTがどこまで格差解消に善戦するかですが、どんなに莫大な資金が投じられようとも、間近で見ている限り、貧困層、そして下位中間層といわれる人たちについては、全体として生活や学習環境が現時点で劇的に良くなっているようにも見えません。まだまだ、焼け石に水に見えてしまうのです。

翻って、日本。アメリカほどの教育格差も経済格差もなく、教育でいえば、PISAの成績も優良(PISAだけが基準ではないですが!)、学校で身の危険を感じることも一般論としては、あまりないかと思います。全体としてみれば、これほどまでに深刻で頭をかかえてしまうような状態ではありません。

とはいえ、「勝ち組」「負け組」の競争文化がひたひたと近寄ってきていて、生まれたときの状況の差かもしれないのに、「それはあなたの能力と努力が足りないからだ」と言われるような社会に近づいてきているようにも見えます。こどもの相対的貧困率が高いのも気になります。

且つ、心配なのが、寄付やボランティアの精神が充分に育まれていない部分です。いい悪いの問題ではなく、戦後中心に、日本ではそもそも資源の再分配は個々人ではなく国がやるのだという認識があるということです。

こうした心理的なものを含めた文化や社会の仕組みの違いを明確にしないまま、アメリカと同じことをしてしまうと、目も当てられないような状況が起きることが確実に予見されます。

月並みな言い方ですが、やはり生まれ落ちた状況、もしくはその後の不遇で大きく人生が変わってしまう社会はフェアでもないし、自由でもありません。アメリカのように、自転車に乗っている人と、重い荷物を持っている人を一緒に競争させて、勝ち負けを決め、自転車で先についた人が、何人かの“かわいそうな”重い荷物を持った人を助け、それが必要以上に称賛される・・・そんな社会は、真の自由競争とはとうてい言えないと感じます。

やっぱり、一人ひとりが自分の力を出し切って、その上でお互いを助け合えるような社会、そして、いざとなったら助けてもらえるような社会が望ましい。そのための教育の力ってすごいものがあると信じています。

変な競争原理に飲み込まれずに、また無駄なコストをかけすぎずに、子供たちがよりよい人生を歩むための援助をすることは、可能だと信じて、今年も活動したいなぁ、と思っています。

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さて、今回のブログ、格差の話だけですこし長くなってしまいましたが、統一テストの中身や、Common Coreという連邦政府による教育スタンダードの話、Special Educationの話などなど、私の知りうる範囲で書けるものは書いていこうと思います。

なお、私はブログとしてこの文章を書いています。アメリカはそもそも州によっても教育区によってもカリキュラムや試験の在り方がだいぶ違う側面があるので、居住する教育区のファインダーを通して、できるだけ州外の方のお話も聞きながら書いています。もし認識違いや、ご意見などありましたら、ウエルカムですので、当校の問い合わせフォーム(下部記載)にお気軽にコンタクトくださいませ!

では、今年もよろしくお願いいたします。

 

<関連ブログ>

アメリカの学校現場におけるITの導入からみる日本のICT導入に関する議論の特殊さ

https://kotaenonai.org/blog/satolog/1003/

デジタル教材に限界あり? アメリカ公立校でのデジタル教材との付き合い方

https://kotaenonai.org/blog/satolog/329/

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https://kotaenonai.org/blog/satolog/861/

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アメリカでの学校選び

 https://kotaenonai.org/blog/satolog/62/

アメリカ公立小学校の新学期

https://kotaenonai.org/blog/satoblog_140830/

 

※この地図を提供しているGreatSchools.org 以外にも同様のサービスがあり、それぞれ独自のレーティングがあります。基本は、州統一テストなどの公開データを基本に周辺情報を補足しているものです。私たちの住んでいる学区ではこのレーティングを見る人が多く、表示も見やすいので、今回このサービスの事例を紹介しました。

※※もともとアメリカの教育は州が主導して、独自のスタンダードで政策を実施してきました。なので、州統一テストも各州でバラバラでした。ただ、このスタンダードを統一しようという動きがあり、2014年から「全米共通学力基準」としてのCommon Coreがスタートしています。採用は任意ですが、この基準を採用すると連邦政府からお金がでるため、40州以上が参画しています。ちなみに、実は私の家族が居住しているテキサス州はCommon Coreを採用していません。

※※※今回のブログでは、統一試験の内容には踏み込んでいません。でも、どういう尺度で評価されるかはとても重要なことですので、そのうちそれぞれのテストの内容も含めてご説明したいと思います。また、こうして詳細なデータをとることで、いろいろな教育スキームの効果をエビデンスとして見せることができるというメリットは確実にあり、だからこそ、教育業界以外から優秀な人材やサービスが参入してくるのだと思います。今回、データを取ることそのものを批判しているのではなく、ここまであからさまにデータを世にさらしてしまって、競争を煽るべきかということについて皆さまと考えたく問題提起しました。

 

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<参考文献>

 

「アメリカにおける学力向上を目指した教育政策の課題」

東京未来大学研究紀要 2012

 

「PISA Results 2012 the United States」OECD

http://www.oecd.org/pisa/keyfindings/PISA-2012-results-US.pdf

 

「正義論の名著」中山元

 

藤原 さと