「すべての子どもは前に進んでいく力を必ず持っている」国立成育医療研究センターチャイルドライフスペシャリストインタビュー

 

6月19日にポラリスこどもキャリアスクール3期「医療」第3回を行います。第1回は関東労災病院救急総合診療科の遠藤拓郎先生、第2回は神戸大学大学院の杉本真樹先生と医師の方にポラリスナビゲーターとなっていただきましたが、3回目は日本でとても新しい職業、「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)」のお仕事にフォーカスします。

医療は、「チーム医療」という言葉がある通り、医師だけでなく、看護師さんや、検査技師さんなどのコメディカル、ソーシャルワーカーさん、セラピストさんなどの各種専門家、そして患者本人・家族まで含めて、チーム一丸となって治療・医療を行います。

今回ポラリスナビゲーターとして登壇いただく3名のCLSの方にインタビューを行いました。CLSとは、医療の現場で数々の困難に直面する子どもたちの自分で立ち向かう力を心の底から信じ、自分の力で乗り越えることを支援するスペシャリストの仕事です。子育てに繋がる貴重なアドバイスも満載です。ぜひご覧になってください。

 

<今回登場いただくチャイルドライフスペシャリストのご紹介>

 

伊藤麻衣氏 米国認定チャイルドライフスペシャリスト

大阪府立母子保健総合医療センターを経て2011年 国立成育医療研究センターにて現職。University of La Verne, Master of Science in Child Life卒

小林奈津美氏 米国認定チャイルドライフスペシャリスト

2012年より、国立成育医療研究センターにて現職。米国州立テキサスウーマンズ大学大学院 教育学部チャイルド・ライフ学科卒

米道宏子氏 米国認定チャイルドライフスペシャリスト

知的障害児童入所施設「くるみ学園」、Asia Pacific Health Care Ventureを経て、2014年より国立成育医療研究センターにて現職。University of La Verne, Master of Science in Child Life卒。Florida Institute of Technology, Applied Behavior Analysis 修了

 

CLS Seiiku

(左より 米道さん、伊藤さん、小林さん)

 

 

こたえのない学校: CLSのお仕事について教えてください。

伊藤さん(以下敬称略):CLSは、医療環境にある子どもや家族に、心理社会的支援を提供する専門職です。手術や長期入院だけでなく、繰り返される検査や採血などの医療処置に臨まなくてはならないこともあります。そうした精神的負担を心の準備をサポートすることなどで軽減し、また、遊びや自己表現、感情表出などを通じて、子どもや家族自身が主体的に医療体験に臨み、その医療体験を上手く乗り越えていけるように、援助していきます。

チャイルドライフサービスはもともとアメリカで1920年代に病院の中での子どもの遊びのプログラムとしてスタートしました。現在では体系化され、大学や大学院で心理学、教育学、家族学、社会学など、医療などストレスを感じうる場面に直面する子どもと家族への心理社会的支援に関する学問を学び、幼稚園や保育園、小学校、特別支援学級、病院などの現場での実習、さらには、認定CLSのもとインターンシップを経て資格を取得する専門職です。日本では現在40名のCLSがいます。アメリカでは現在約4000人の登録者がいます。

 

こたえのない学校: CLSを知ったきっかけ、取ろうと思ったきっかけを教えてください。

伊藤:私は、15歳くらいの時にあるテレビ番組のエンディングで、私服を着た女性が点滴ポールをつけた男の子と遊んでいたのを見て、「あぁ、このおばさんになろう!」と思いました(笑)

以前から“笑顔”にはとてもポジティブなパワーがあると思っていて、どんな場所でどんな状況であっても笑うことの大切さ、あたたかさがあると。エンディングの十数秒でもその女性と男の子はとても楽しそうでハッピーな印象を受けました。私も、そんな笑顔のお手伝いをしたいと思ったのです。

のちにそれがCLSという職業だと知ったのは、初めてCLSが日本の新聞に載った記事を当時の高校の担任の先生が「あなたのやりたいことはこれじゃない?」と見つけて私に教えてくれたことがきっかけでした。そのころから、必要なときにすぐ手に取れるふわふわのブランケットのような存在、CLSになるという夢を持って進んできました。

 

米道: 私は、子どものころは実はまったく子どものことには興味がありませんでした(笑)。中学のころはお金のことに興味があって、通関士になりたかったのです。大学はそのまま経済学部に進みました。その時に教職をとったことで教育に興味を持ち、卒業後は、障害児の児童入所施設で約6年働きました。そこで、ネグレクトを受けたお子さんや、重症心身障がいを持つお子さんに向かい合う日々をすごしました。4年目の後半から障がいがありながらも虐待を受けた幼児を受け持つようになったのですが、その対応が非常に難しく、もっともっと勉強しなければいけないと思うようになりました。いろいろ調べた結果、児童虐待防止法のベースとなったカリフォルニア州がこの分野で進んでいることが分かり、英語が全くできないにもかかわらず、渡米してカレッジで障がい児教育の課程を取得しました。その時に教授からCLSを紹介されました。

その後、障害児教育のチューターもしながら、ロサンジェルスのコミュニティクリニックで医療通訳として約5年勤めました。後半からはチャイルド・ライフの資格をもっているなら、ということで、小児科の先生に声をかけられ、サポートにはいらせてもらい、その後ご縁があって、成育医療センターでこの仕事をスタートしました。

 

小林: 私は日本の高校を卒業してから渡米してそこで、CLSを初めて知りました。その時に日本の先駆者である、藤井あけみさんの「チャイルド・ライフの世界~こどもが中心の医療を求めて」という本を読む機会がありました。読んですぐ「あぁ、これは私がやりたかったことだ」とピンときました。その後、専攻を変更し、大学院で発達学、家族学、そしてチャイルドライフを学んで、現在に至ります。

 

こたえのない学校:仕事でやりがいを感じるとき、逆に大変だなと思うときはどんな時ですか?

伊藤: たとえば採血が怖くてできなかったのに、子どもたちがそれを自分で乗り越えて自分自身で出来るようになった様子や子ども本人の誇らしげな表情を見られたときは、非常にやりがいを感じます。また、チャイルドライフとしての「遊び」はしんどい治療や処置の後の感情の発散や表出を目的とすることが多いのですが、そういう時にその子らしく遊びきる様子が見えると嬉しいですね。適切な環境設定と本人に適した声掛けをすることで、本人が自らできる、というプロセスの実現に喜びを感じます。

一方で、CLSの仕事は他職種から見ると何をやっているのか一見すごく分かりにくい面があると思います。

たとえば、医療処置時に子どもの気持ちをそらしたりその子が乗り越えやすいような状況を整えたりするときに、おもちゃや道具選び、CLSの立ち位置、子どもへの声かけ、医療スタッフとの会話などすべてにしっかりとしたアセスメントがあって、理由と目的があります。

医師・看護師を含めた医療スタッフ、そしてご家族にCLSとしての視点や役割をうまく伝えながらひとつのチームとして連携できるようにするところが難しくもありますが、こどもや家族含めた医療チームとしてうまくコミュニケーションがとれるとやはりとてもうれしいですね。

 

米道: そうですね。基本は、伊藤さんと同じですね。違うところといえば、担当する疾患に違いがあり、伊藤は血液腫瘍科、小林は外科、米道は移植をメインにみるので、それぞれの科の文化による多少の違いはあるでしょうか。

CLSの行為については、Evidence Based Practiceといって、すべてデータがあり、効果が示されているものなので、その部分をしっかり理解していただけるととてもうれしいです。

 

こたえのない学校:今後チャレンジしていきたいことはありますか?

伊藤: 病院の中をもっともっと楽しい場所にしていきたいですね。いろんな病院でドッグセラピーや、プラネタリウムなどが実施されていますが、衛生管理など、まだまだ日本の病院ではクリアしなければならない課題もあります。一つ一つクリアして、子どもだけではなく、親御さん、ごきょうだい、スタッフも含めて、みんなにとって温かい病院にしていければと思います。また、病院を閉じた空間ではなく、地域や社会に開いた場にして、医療の外の人たちとどんどんコラボレーションしていけると嬉しいです

 

米道: エビデンスベースドプラクティスを日本の環境下でも確立していきたいです。その場合には、やはり医療スタッフの協力、ご家族のご協力が必要です。また、ホスピタルカルチャーを変えるということはこれからも続けなければならないと思っています。医療スタッフや関係者との丁寧なディスカッションを重ねることにより、本質的な変化を起こしていきたいと思っています。

 

小林: やはり温かみのある病院になっていったらいいな、そうしていきたいと思います。感染の問題で、きょうだいが病棟に入れないことなど、色々制約はありますが、家族中心医療という言葉もある通り、家族を中心に置いた取り組みというものをしていきたいと思っています。

 

こたえのない学校:子どもたちへのメッセージをお願いします。

伊藤: われわれ大人にもいえることですが、「すべての子どもは前に進んでいく力が必ず備わっている」でしょうか。どのような状況にあっても、子どもは前に進んでいけるし、進んでいきます。その力をみんなが信じることができればと思っています。

 

米道: 子どもはきちんと考えを持っているし、問題を解決する力も持っている。「あなたたちにはすでに乗り越えていく力を持っている」ということを伝えたいですね。また、人によって芽を出す時期はそれぞれなので、大人は種をまき水をやりながら、どこかのタイミングで芽を出すところを楽しみにしながら子どもたちを見守れればいいし、子どもたちもそう思って急がなくていいのだと思います。

 

小林: そうですね。「人はみんな愛されて、目的があって生まれてきている、価値がある存在だ」ということを伝えたいです。

 

こたえのない学校: ありがとうございました!

 

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