FOXメンバー合宿してきました!(軽井沢風越学園・ほっちのロッヂ訪問)

今年の夏はとても暑かったですが、だんだん肌寒くなってきました。暑かったことを忘れてしまいそうですね。

 

さて、こたえのない学校では、昨年よりFOXプロジェクトというインクルーシブ教育のプロジェクトをはじめました。重度の障がいを抱える子の親がコアメンバーとして参画していて、住んでいる地域もバラバラなので、いつもはZoomで雑談をしています。でもさすがにみんなで集まって、時間を気にせずに存分に話したいね!とのことで、10月10〜12日、2泊3日で合宿をしてきました。場所は軽井沢!


<なぜ軽井沢にしたのか?>

 

コアメンバーの一人、坪内博美さんは福井に住んでいます。12歳になる双子男児(ゆうすけ君、まさき君)は、共に寝たきりで医療的ケアを必要とする重症心身障がい児です。坪内さんは無類の旅好き。でも重い障がいを抱えた双子がいては自由にその辺に出かけることもままなりません。でも坪内さんはラッキーなことに、ちょうど双子たちが生まれた時にある在宅ドクターに出会いました。「家族旅行も行けないし…」とぼやいてたら、「いや行きましょうよ」と言われます。そして、そのドクターが中心になって企画してくれて海に行ったのでした。さらに、そのドクターは今度は遠方にも行けるよ、と「軽井沢キッズケアラボ」というプロジェクトを2015年に立ち上げました。

 

軽井沢キッズケアラボは、2015年から2019年の5年間、子ども達の夏休みに合わせて一時的な滞在拠点を開設し、全国から軽井沢に遊びに来ている子ども達とその家族が利用できる場所として活動を続けてきました。坪内さん家族も毎年参加していました。そして2017年、「ある在宅ドクター」こと紅谷浩之さんと20代の頃から介護ベンチャー事業の立ち上げなどに携わり、人が集まる場所づくりを模索してきた藤岡聡子さんが出会います。意気投合した二人は、共通する問題意識やビジョンをもって、「ほっちのロッヂ」を2020年4月に軽井沢に開設しました。

 

「ほっちのロッヂ」は「症状や状態、年齢じゃなくって、好きなことする仲間として出会おう」というコンセプトで、外来や訪問診療、訪問看護といった医療の提供や、医療的ケア児の拠点としても活動されています。こうして、医療的ケアが必要な子ども達も年間を通して軽井沢に滞在ができるように整えられていきました。しかし、新型コロナによって、他県への移動をすることもままならず、誰もが家の中に閉じこもることを余儀なくされることになります。でもそろそろ収束の予感!?コロナが落ち着いたら行きたいね、とFOXメンバー間で話すことが増えていきました。

 

(ほっちのロッヂ外観:2021年12月藤原撮影)

 

ところで、紅谷先生と藤岡さんが今の場所で「ほっちのロッヂ」を開設する際に決め手となったのは、軽井沢風越学園の開校だったそうです。軽井沢風越学園は、「じっくり たっぷり ゆったり まざって 遊ぶ 学ぶ 「」になる」というコンセプトで、「〜たい」という気持ちを大切にします。そんな考え方に共感して、教育現場と隣り合わせの場所で何かができればいいな、と思ったそうです。一方で、私は2016年にスタートした教育者育成のプログラム Learning Creator’s Lab(LCL) の立ち上げ以来、軽井沢風越学園の校長の岩瀬直樹さんにはずっとお世話になっていました。開校前より、定期的に軽井沢風越学園には伺わせていただき、また私たちのプログラムに対するアドバイスももらっていました。

 

そしてFOXプロジェクトは、日本でも数例しかない遺伝性疾患を持つ門川未來(みく)君とお父さんとの出会いからはじまっているのですが、門川さんから「とても素敵な人がいるよ」とご紹介いただいたのが坪内さんだったのです。当時、私は坪内さんと軽井沢キッズケアラボが関係していたことは知りませんでした。また「ほっちのロッヂ」のことは聞いてはいましたが、具体的にどんな活動をしているのかほとんど分かっていない状態でした。ということで、軽井沢にはなんだか不思議なご縁を感じるのです。

 

<軽井沢、本当に行けるのか!?>

 

こんなふうにして「行きたいね」から始まったFOX合宿企画。しかし、今回一緒に行くことになった橋場満枝さんの次男のRay君は、広汎性発達障がいがあります。公共交通機関は乗れるのですが、こだわりから軽井沢でのメインの移動手段となる乗用車になかなか乗れません。なので、東京でRay君をショートステイに預けなければなりません。ショートステイの予約は1ヶ月前からオープンになるというので、行く日を決めたら、その1ヶ月前に即座に予約を入れます。実は当初7月に計画していたのですが、ショートステイの確保やさまざまな理由で10月に延期になりました。坪内さんは双子の弟のまさき君と一緒に軽井沢にくることになりましたが、兄のゆうすけ君は家族にお願いするか、ショートステイに預けなければなりません。また、まさき君は自宅から介護タクシーをつかって福井駅まで行って、そこからJR特急に乗って金沢駅、そこから軽井沢駅まで新幹線に乗ってやってきます。新幹線にはベッドが設置されている多目的室があるのですが、やはり1ヶ月前に予約開始で日程が決まったらすぐさま予約しなければなりません。軽井沢駅についたら車椅子を載せることができる介護車両をレンタカーします。泊まる場所もこうした旅に理解があるところにしたいと思い、現地の人に色々聞いて、ばーば&パパさんというペンションに決めました(この宿の選択が大正解だったことに後で気がつきます)。ちなみにこの辺の細々としたアレンジメントは縁の下の力もち、長谷川さんがしてくれました!

 

(まさき君が福井から軽井沢に向かう途中:坪内さん撮影)

 

でも、これだけ準備をしても、うまくいかないこともあります。初日の10月10日には近隣の軽井沢西部小学校で気球に乗れるはずだったのに、天候不良でこの日は飛びませんでした(涙)。また、7月中旬にまさき君は軽井沢キッズケアラボとして、スタッフや看護師さんたちと一緒に一人で福井から軽井沢に来るというチャレンジをしましたが、発熱してしまいました。ほっちのロッヂから急遽往診、療養が中心でそのまま帰ってくるということも経験しています。今回も天候やまさき君の体調、コロナの状況など少し心配だったりもしました。数日前からメンバーはみんなで天気予報とにらめっこ。でも、10日は雨が降りそうだけど、11日から晴れそう・・。当日を楽しみに待ちました。

 

<軽井沢風越学園、ほっちのロッヂに伺って>

 

そしていよいよ10日、念願のリアル対面!気球は飛ばなくなってしまったので、せっかくだからと観光でもと、絵本の森に行きましたが雨が降ってきてしまいました。まさき君もずっと車椅子でちょっと疲れた感じも・・。どうしよう・・となりましたが、気球のイベントがなくなって残念組が風越学園に場所を借りて集まっているという話を聞きつけ(当日はスポーツの日で学校はおやすみ)、私たちも向かいます。そして、そこで午後はゆっくり過ごさせてもらいました。FOXメンバーの福田は保育園に通っている2人の子どもたちと一緒に軽井沢に来ました。すぐにまさき君とも、人工呼吸器をつけているY君とも一緒になって遊びます。私もまさき君をだっこさせてもらったり、のんびりとみんなとお話できました。やっぱり対面で会えるっていいですね。

 

 

2日目は天候にも恵まれ、鮮やかな秋晴れです。午前は軽井沢風越学園、午後はほっちのロッヂへ伺いました。

 

風越学園の玄関に着くと、「病気なの?」「お鼻には何をつけているの?」「何歳?」と質問がどんどんきます。「この子会ったことがある!」という子がいて、話を聞いてみると、本当に7月にまさき君が大賀ホールにいた時に会っていたという再会の場面も。そしてハンモックを設置してもらいました。ねらいは成功!外で遊んでいた幼児さんがどんどん集まってきます。

 

 

木に登ったら見えるかな?

 

 

お花やどんぐり見えるかな?

 

 

昼ごはんの時間。まさき君は胃ろうというお腹に小さな穴をあけ、管を取りつけてそこから栄養をとります。4年生の子どもたちがやってきて、坪内さんに教えてもらってお白湯を直接あげました。また、まさき君と坪内さんは1年生の教室で簡単にみんなに自己紹介する機会ももらいました。私は現場にいなかったのですが、数名の子が鼻に挿入している管を見て「これ何?どうしたの?」と尋ねてきたそうです。そこで、坪内さんは子どもたちに天井を見てもらい、舌が喉元に落ちて息がしにくくなる様子を体験してもらいました。

 

 

パシャリと記念撮影!(ちょっと見えにくいかもしれませんが、私と坪内さんとまさき君はRay君の描いた絵がプリントされたTシャツを着ています。Ray君の絵は本当に素敵なので、こちらをご覧ください)

 

(左から、坪内さん、風越学園理事長・本城さん、まさき君、藤原、風越学園校長・岩瀬さん、副校長・寺中さん)

 

そして、風越学園にお邪魔したあとは、ほっちのロッヂへ!
ほっちのロッヂは、屋内もほんとうに素敵なのですが、裏の森が本当に素敵。アート作品もあちこちに飾られています。まさに「好きなことをして出会おう」です。ほっちのロッヂは2022年グッドデザイン賞を受賞しています。

 

屋内の様子

 

 

裏の森。捨てられそうになっていた古いオルガンを引き取って、設置しています。ここで演奏したり、赤いカーペットを敷いて集うこともあるそうです。ほっちのロッヂはアーティストたちも集う場所となっており、演奏会やアート展なども行われるんです。

 

 

こちらでも、記念撮影!

 

(ほっちのロッヂ前にて:左から紅谷先生、Sちゃん、ほっちのロッヂ澤さん、FOX坪内さん、福田、まさきくん、藤原、長谷川、そして一番右が藤岡聡子さん。橋場さんはRay君がいるので一足先に東京に戻りました)

 

<旅をしてみて・・>

 

こうやって2日あまり過ごしてみましたが、ほんとうに楽しかった!はじめはFOXプロジェクトの将来について話し合いをしましょう、なんてことも言っていたのですが、皆会ってしまえば、雑談・雑談・雑談・・!でも、そんなたわいもないおしゃべりが楽しすぎるわけです。そして、まさき君にも会えて本当によかった。言葉はしゃべれませんが、だんだんに表情も豊かになり、読み取れるようになってきます。一番感激したのが、2日目の朝に「まさき君おはよー」と声をかけたらすごく嬉しそうな笑顔を見せてくれたこと。あくまで私の感覚ですが、大人が周りでしゃべっていることを結構聞き取れているし、相当なレベルまで理解できているんじゃないかなぁ、と思います。

 

そして、驚きだったのがまさき君が2日目の晩に数年間ずっと胃ろうだけで、口から食べていなかったのに、スープを口にして美味しそうに食べたこと!宿のオーナーさんは、ご自身も福祉のご経験があるとのことで、ミキサーもあるので胃ろうに入れる注入食も作っていいですよ、との神対応。はじめはミキサー食を作ってみたのですが、当日畑で育てたとうもろこしで作ったコーンポタージュが出され、それがとても美味しい。そしたら口からためしに食べてみようかとなりました。坪内さんが口にコーンスープを運ぶと口を動かしながらしっかりと飲み込めました。次はデザートだった巨峰の汁。こちらもとっても美味しそうに味わいます。

 

 

また、坪内さんが言うには、まさき君は特別支援学校に通っているときには多い日は放課後のデイも含めて1日10回くらい痰の吸引をするそうです。それなのに、なんと今回の旅でほとんど吸引せずに済んでしまったのです!私が見ているだけでも、まさき君のさまざまな能力がどんどん開発されていく様子を感じ取ることができました。あたりまえですが外の空気に触れ、いろいろな人たちと触れ合い、感じていることが多ければそれだけ元気になるだろうし、活力も湧くというもの。逆に私がずっと車椅子に座って、毎日同じ場所の往復で室内で同じ人としか触れ合わず、壁や天井を見ていることが多かったとしたら・・。すべての人はどんな状況にあっても学べるし、学び会えるはず。そして、私がそうだったように関わって一緒にいることで、「生きる」ということをまざまざと感じたり、とても楽しいわけです。こんな豊かな時間を一緒に過ごせるのに何もしないなんてもったいない。

 

また、お伺いした後に風越学園のみなさんとやりとりしましたが、ライブラリーの真ん中でじーっとまさき君をみていて、「がんばってね」と声をかけた子がいたり、「かわいそう」とつぶやいた子がいたりしたそうです。私がみていた中でも、遠巻きに近寄ってきて、ずーっとみていて、話しかけたり、お世話を焼こうとしている子が何人もいました。こうして子どもたちが触れ合ったり、感じ取ったりする機会を奪っているのは一体誰なのでしょう。まさき君にとっても、触れ合った子にとっても、私たちFOXメンバーにとっても幸せなひととき。なんとかこうした機会を増やせないものかと考えています。

 

夏はノーマライゼーション発祥の地デンマークでいくつかの施設や学校を視察しました。デンマークでは、知的障がいを持つ人たちが(いわゆる)健常の人たちと一緒に生活する村(ハーサコミュニティ)や重度の障がいを持つ生徒が、自分のヘルパーとなる学生を面接し約半年一緒に過ごすエグモント・ホイスコーレンなどを訪れました。エグモント・ホイスコーレンでは、まさにヘルパースチューデントが重い障がいを持つ生徒と一緒に旅をします。

 

彼らは、肉体として障がいがあったとしてもすべての人は等しく社会にかけがえのない資質を持っており、だれしもが社会の基盤を共有した方がお互いにとって良いとする考え方を持っていました。共生社会と一口に言いますが、さまざまな形があってもいいし、インクルーシブといっても、単に教室で一緒という話ではなく、お互いがお互いを尊重しあえるような「よい出会い」をお互いにしていけるような場や機会をたくさんつくっていきたいな、と改めて思いました。

 

2日目の夕方(10月11日)は坪内さんとまさき君と「ツルヤ」というスーパーに買い物に出かけたのですが、ふと外を見ると真っ赤な夕焼けと鱗雲。こんな空も楽しめてしまった旅となりました。

 

 

こうしてこの一連の経験を経て思うこと。これってまさに「プロジェクト」ではないでしょうか。もちろん副籍交流も大切だし、地域の学校(いわゆる通常学校)に重い障がいがあっても通えるようにすることも当然の権利として認められていかなければなりません。でも、学校には運動会もあれば、遠足も修学旅行もある。総合的な学習の時間、総合的な探究の時間もあります。そうだったら、こうした時間を使って有意義で楽しい時間を一緒に過ごすことはできないでしょうか。FOXプロジェクトはかえつ有明高校にコラボして、2月に向けて50時間超のプロジェクトに伴走します。こうした取り組みを少しずつ続けて、意味のある特別支援・インクルーシブを模索していきたいと思っています。

 

※橋場さん(Ray君のお母さん)もブログを書いてくださりました。→こちらから。障がいがあるといっても、一人ひとり違いがあって、その違いをお互いに知り合う場としても、とても意味のある旅となったように思います。是非読んでみてください。

 

<インクルーシブに関する過去のブログ・インタビュー>

障がいがあっても「たのしさ」で繋がる共生社会へ −エグモント・ホイスコーレン訪問

特別支援学校、チャレンジスクールってどんなところ?ー教師座談会 Vol.1(前半)

特別支援学校、チャレンジスクール、地域の学校の課題とは?ー教師座談会 Vol.1 (後半)

教師の仕事は徹底した個への関心がないと成立しない 〜誰一人として見捨てない教育へ

発達障害等の子はどう過ごしている?アメリカ公立校の特別支援教育の現場

多様な個性が生かされる教育、インクルーシブ教育について考える

 

FOX PROJECT はこちらから

FOXプロジェクトでは、当事者・医療者・教師・行政のみなさまに、さまざまな観点からインクルーシブ教育についてお話を伺っています。インタビューの一覧はこちらから

 

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