サステイナビリティーに対する本質的な問いに向かう公立学校―SEEQS

 

藤原さとです。海外の教育を映像化するというプロジェクトがあり、そのサポートをさせていただくご縁で先週ハワイの学校をいくつか視察しました。その中でもサステイナビリティーを学びの中心に据えた「SEEQS」では子どもたちがのびのびと学んでおり、日本の学校にも参考になりそうなものが多かったので、ご紹介したいと思います。

 

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「サステイナビリティー」という言葉は聞くことが増えてきたかもしれませんが、国連などで使われている定義では「将来世代のニーズを損なうことなく、現代世代のニーズを満たす発展」となります。環境問題として捉えられることが多いかとも多いかと思いますが、人間の社会経済システムの持続可能性もスコープに入ってきており、大きく捉えると人権問題や貧富の格差、平和問題なども含まれてきます。SDGs(持続可能な開発目標)とほぼ同義に捉えても、問題ないかと思います。

SEEQSはチャータースクールという仕組みを利用しており、チャーターという独自の学校計画が認められれば政府から資金提供を受けられるため、公立校の扱いで子どもたちは無償で学校に通うことができます。ハワイには現在30のチャータースクールがあり、全生徒の5%程度、1万人から15,000人程度の生徒が通っているそうです。過去お伝えしたHigh Tech HighNew Schoolもチャータースクールです。

 この学校は、Buffy Cushman-Patzという女性が7年前に設立しました。もともとサイエンスの教師ですが、ハーバードの教育大学院のリーダーシップコース在学中にSEEQsのアイディアを温め、チャーターを提出し6人の仲間と一緒に学校を立ち上げました。地元の高校の校舎の一部を借りて運営しています。

 

【サステイナビリティーを中心としたカリキュラム】

 

この学校は”The School for Examining Essential Questions of Sustainability”となっており、「サステイナビリティーに対する本質的な問いに向かう学校」と定義されています。

Essential Questions of Sustainability(EQS)という問いを中心にした探究によって、地球に貢献し、積極的に責任を持つ健康な子どもたちを育成します。ちなみに学校名のSEEQSは、”School for Examining Questions of Sustainability”の頭文字をとったものになります。

学校自体のアイディアもコミュニティという土壌に、「学び」という種を植え付け、そこにサステイナビリティーをテーマとしたEQSの様々なプロジェクトに積極的に関わることで、子どもたちが自らも葉をつけ、幹を育て、大きな木として成長していく、というイメージを持っています。

(ミーティングも屋外で行われました。)

 

【EQS-サステイナビリティプロジェクト】

 

対象年齢は、日本でいう6年生、中学1−2年生です。学生数は3学年で190名。先生は14名。全体のカリキュラムはこの後で説明しますが、EQSの探究単元は、3学年が混じり合って年間を通じて一テーマを探究します。テーマは3つあり、生徒は学年始まりの3週間でどのテーマのグループに入るかを決めます。今年のテーマは「水」「選択(CHOICE)」「食物と自立」です。水曜日を除いた毎日二時間が割り当てられており、地域と連携したり、学校外へ出ていくこともとても多いそうです。

いったんチームが決まると3ヶ月間程度はグループのみんなで先生がある程度リードするかたちで協働のプロジェクトを行い、12月に発表をし、1月から6月までの後半は自分がやりたいテーマを決めて個人でプロジェクトを行います(お友達と進めても構いません)訪問した今の時期は、ちょうど協働のプロジェクトの期間でした。だいたい1ユニット30名前後で進めており、チームティーチングを行っています。1ユニットにつく教師の数は3名、うち1名は特別支援担当の先生がついています。

 

プロジェクト1:水の探究

このチームではオアフ島の分水界や流域をテーマに学習しており、どのようにして水が生まれ、流れていき、地域ごとに特性があってそれらに対して私たちは何ができるのか?ということを学んでいました。プランターを使って、植物の保水や水の流れをどのようにコントロールするかを学んだり、オアフ島の分水界を実際度々見にいくほか、汚れてしまった近くの川を綺麗にするプロジェクトを2年しており、外来種をとって、在来種を増やそうとしていました。でも、雑草は根まで取らないと結局また生えてきます。とてもハードな作業なのですが、自分で決めたプロジェクトだからでしょうか。生き生きと楽しそうに取り組んでいるのが印象的でした。

 

プロジェクト2:食べ物と自立

こちらのチームは、「私たちはどのように食べ物と自立に寄与できるか?」をテーマにプロジェクトを行なっていました。もともとハワイは完全に食料自給が行われていましたが、町が大きくなり、産業が発達するにつれて、食料を自分たちで賄うことができなくなり、いまは8割の食料を輸入など外部から頼っています。この日は、チームに分かれて、「もしいま全ての外からの食料がストップされたら、どうするか?」をロールプレイで発表する検討を行っていました。

 

プロジェクト3:わたしたちの選択

こちらのチームは、「私たちの選択がどのようにコミュニティに影響するか?」という問いでプロジェクトを進めていました。この日は、Downshifting Spot。ゆっくりできる場所を学校に作ろうということで、それぞれの計画を考え、投票し、いつどのように進めるかを哲学対話形式で進めていました。マインドフルネスの時間なども取り入れられています。

 

 

【アセスメント・評価】

 

SEEQSの哲学とコアとなる指針は下記の5つです。

 

1. 現実の設定と文脈の中で実現するリアルな学び

2. 自分の学びに主導権を持つ時にはじめて(真正な)学びは実現する

3. 全ての人は教え手であると共に学び手である

4. 学びの環境は、コミュニティの人たち、文化価値、物理的条件によってできている

5. 組織の改善はコミュニティの人たちが関わることで実現する

 

そして、この学校には、先生やスタッフが持つべき、そして子どもたちが育むべき5つのサステイナビリティスキルが設定されています。

 

1  分析的な推論 (エビデンスや論理に従って判断すること)

2  マネジメントスキル (大きなタスクであっても、フォーカスを定めやりきる)

3  パワフルなコミュニケーション(相手に伝わるコミュニケーション)

4  生産的な協働力(チームとして共通のゴールに向かう)

5  システム思考(パターンを見つけ、繋げ、解決をデザインする)

 

SEEQSは、チャータースクールとはいえども公立ですので、Common Coreという国の学習指導要領のようなものに準拠し、学力テストみたいなものも受けなければいけません。ただ、それとは別にそれぞれのプロジェクトの発表内容や、生徒が主導して行うカンファレンス(Student-led Conference)、自らその年の目標を設定し、どこまで到達したかを教師と話し合うような時間があります。また、大きいのが、最終学年の8年生で大学院の学位審査会(Defense)のようなものがあることです。ここで全ての生徒は自分がこの学校でやってきたことを総括し、上述の5つのサステイナビリティスキルがどれだけ達成できたかをプレゼンテーションします。当然差し戻しもある厳しいものだそうです。

 

【基礎学習・その他】

 

上述のプロジェクト学習の単元は、午後の最後の二時間が当てられていますが、それ以外に、当然「国語」「数学」「理科」「社会」「芸術」という単元はあります。また、「アドバイザリー」というものがあって、入学すると子どもたちは、必ずどこかのアドバイザリーグループに入ります。ハリーポッターで「グリフィンドール」のような寮のチームがありますが、仕組みが少しに似ていて、6年生から8年生まで混合で、三年間同じアドバイザリーで過ごします。1グループに12名いて、同じ先生がずっとついて、毎年新しい友達を迎え入れ、卒業者を送り出します。

毎朝、授業が始まる前に一時間弱のゆったりした時間が組まれており、遊びを中心に過ごしますが、週に2日は、アドバイザリーで過ごすことになり、水曜日の午後には75分をかけて、アドバイザリーグループで集まってじっくり話し合ったり、SEL(社会的情動的学習)のツールを使って、友達の間の問題解決や、個人の問題などを話しあいます。

 

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見学の最後にファウンダーのBuffy Cushman-Patzにもお話を聴く機会がありましたが、とにかく情熱的。チャーターは自治体から資金が出るといっても、いわゆる伝統的公立校より配分される予算は少なく、建物なども自分たちで準備しなければなりません。現地の公立高校の空き教室を借りるだけでは足らずにオフィスはバラック小屋をたて、新しい教室はなんとビニールハウスの中でした(ハワイだからできる!写真撮るの忘れました。。)

もともとアメリカの公立校の教師の給与は低いのに、さらにそれよりも低い給与にも関わらず、良質なチャータースクールには全米から熱意のある教師が集まってきます。教師の採用は大変ではないかと聞きましたが、「すでに評価を得ているのでそれほど困っていない。むしろハワイ現地の教師と本土からの教師のバランスを取るように気をつけている」とのことでした。

もちろんチャータースクールの制度は良いところばかりではなく、州によって運営の方針も現場も大きく違うので、手放しで賞賛するものでもありません。うまくいかなくなった公立小学校の「外だし」と捉えられることもあるし、人気が出れば、当然希望者全員が入れないため、抽選となり、あぶれた子どもたちとの教育格差は開きます。また、私が元いたテキサスなどは、州の基準がゆるすぎて、結果的に経営難でつぶれてしまうチャーターの数もそれなりにあります。

とはいえ、こうした学校を見ると、バラック小屋でも良質な教育を実践できる学校ができてしまうわけです。今回の視察は、日本で学校を立ち上げた、また立ち上げる先生と一緒に行ったので、色々話す機会がありましたが、学校設立に際し、(一条校を設立するための)認可の規制があまりに厳しすぎると感じています。国の施設基準を満たすために、天井の高さや教室の大きさなど、指定が細かすぎて、既存のビルを使うことは非現実的であり、莫大な資金や土地を持っている人、何らかのコネクションのある人しか学校を立ち上げられず、審査のプロセスもとても複雑です。また、クラスのあり方も、サイズもこのように柔軟に組むことができるのであれば、時代錯誤な基準も多いはずです。こうした基準がいまの子どもたちのためになっているかは甚だ疑問です。

日本は私学助成や、公立校の教員の勤務ローテーションなど、アメリカとは多くの違いを持っており、良い制度もありますので、チャーターをやればいい、という単純な話をするつもりはありません。でも、やはり今、多くの公立校で実施されている学びのあり方は次期学習指導要領でも示されている通り、大きく変わっていかなければならないと感じています。そして、それは今のやり方で十分なスピードで実現できるのか。もっと教育の現場に多様性は取り入れられないのか。考え続けています。

 

<参考ブログ(今回の視察関連)>

今回の視察では、Mid Pack Institute、Hanahau’oli という2つのとても違った特徴を持つ伝統校も見学してきました。また、ハワイ大学は子ども哲学(P4C)の研究と実践が進んでおり、公立小学校での哲学対話の授業を見学することができました。まずは、Mid Pack Instituteの方はレポートしていますので、こちらもご覧ください。

イノベーションを続けるハワイの伝統校―Mid-Pacific Institute

 

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