home > Blog > 藤原 さと > High Tech High ―最上のアウトプットを求める学校文化の育み方

藤原さとです。

2019年もいよいよ始まりました。初仕事としては、経産省「未来の教室」事業の採択を受け、全米でも屈指のPBLプログラムを誇るカリフォルニア州サンディエゴをベースとする公立校(チャータースクール)のHigh Tech High(以下HTH)による東京での研修が1月4-6日で開催され、無事終了しました。

本研修プロジェクト全体としての目的は、現状、 STEAM/プロジェクト型学習(PBL)の実践者が極めて少ない日本に於いて、国際的にもトップレベルの探究PBLを実践する先進校による現地視察(2018年12月)と国内研修(2019年1月)を実施するほか、先端的な改革に取り組む教育委員会や教育機関と連携することによって、日本におけるPBLの全国全面普及に向けての礎を築くことにあります。

こたえのない学校はMistletoe株式会社Future Eduさんと共に、SOLLAコンソーシアムメンバーの一員として本案件に参画させていただきましたが、今回小中高、私学・公立・教育委員会の先生方、担当する学年も科目もバラバラな先生方46名に全国からお集まりいただき、研修を実施することが出来ました。私自身、HTHには今年の5月、10月、12月と3回にわたって現地の3つのキャンパス全てを訪問し、現地の研修も受けてきましたので、そちらも含め具体的にどんな内容だったのかごく簡単なサマリーとしてこちらに記録しておきたいと思います。

まず第一弾としては、PBLの実践やプログラム開発手法そのものではなく、それを支えるHTHの学校文化についてまとめていきます。

<クラフトマンでいっぱいの教室が欲しい>

HTHの教育は、公立学校の教師として28年務め、現在EL Educationのチーフアカデミックオフィサーであり多数の著作のある教育者であるロン・バーガーから大きな影響を受けています。HTHが舞台となった映画「Most Likely to Succeed」でも見られるその美しい成果物に対するこだわりはまさに彼の書いた“エクセレンスの倫理”の中にあるように思います。

ロンバーガーはその著作の中で、まず教室は、「自分のすることを誇りに思い、自身や他人を尊重し、力強く正確で美しい学習活動をする生徒たち」でいっぱいになって欲しいと言います。そしてそういう子供たちを「職人=クラフトマン」と呼びました。

では、その子どもたちが「職人」となるために学校として必要なものは何でしょうか。

高価な工具でしょうか?それとも、素晴らしい工芸をつくる専門家がそこにいることでしょうか。

ロン・バーガーはその鍵は「文化」であると言います。子どもたちに最高のものをアウトプットするエクセレンスを求め、それをサポートする家族の文化、地域の文化、また学校の文化こそが子どもたちのエクセレンスに対する倫理観を強力に養うと言います。

この「エクセレンスの倫理」がある学校は今どれだけあるでしょうか。とにかく量をこなすことが求められるドリル問題、大量の暗記が求められるテスト、プレゼン発表と同時にゴミ箱行きになる成果物などであふれているのが実情ではないでしょうか。

一度社会に出ると、当然のことながらゴミ箱に行きと分かっていて真剣にプロジェクトに取り組む大人はまずいません。しかし、こうした真剣でないプロジェクトが学校やワークショップの中にはなぜか蔓延しているという事実に私たちは一度向き合う必要があるのかもしれません。

ロン・バーガーは言います。生徒は、自分にエクセレンスを実現する能力があることを一旦理解すると決して元に戻らないと。自分自身に対する新しいイメージを持ち、さらにエクセレンスに貪欲になり、エクセレンスを伴わないものに満足できなくなると。

<優れた職人を生み出すために教育者ができることは?>

では、どうしたら子どもたちがこのような「エクセレント」な作品を創る職人になるように教師は支援できるのか。そのための教師の5つの慣習についてロン・バーガーは以下のように述べています。

  • 意義のある学習活動を割り当てる

生徒には挑戦が求められ、刺激を受ける課題が必要。実際のコミュニティーの中で生きているリアルな課題などは意義のある学習活動になる可能性がある。

  • エクセレンスの事例を研究する

プロジェクトを開始する前に「エクセレンス」が何かを定義するためにそのモデルとなる作品を探すことが必要。過去の生徒の作品でもよいし、専門家によるものなど良い事例を探す。そのうえで、そのエクセレンスを達成するプロセスを要素分解し、プロジェクトに反映させる。

  • 批評の文化を構築する

生徒の学習活動を向上させるために欠かせないのが批評(Critique)の文化である。作品を仕上げる過程で、グループでお互いの作品の批評をすることによって、作品のエクセレンスが向上する。その時、子どもたちは、「KIND(親切に)」「SPECIFIC(具体的に)」「HELPFUL(助けになる)」批評ができるように学んでいく。(HTHではこの批評とお互いのフィードバックの文化が実装され、とても大切にされています。)

  • 複数回の見直しを要求する

ほとんどの学校では、生徒は最初のドラフトをそのまま最終成果物として出してしまうが、それは彼らの最善の努力を表すものではない。エクセレンスの倫理に則ったプロジェクトでは見直しと修正(Revision)のプロセスが必須。

  • 公のプレゼンテーションの場を提供する

ロン・バーガーの「Leaders of their Own Learning」では、オーディエンスのヒエラルキーが紹介されており、下記の図の下から上に行くにしたがって、モチベーションとエンゲージメントが高まるという図式になっています。一番下(つまりモチベーションが一番低い)は現状の多くの学校で求められている「教師のための提出物」であり、それから保護者、学校内での発表、学校外での発表、専門家への発表、世界(社会)に対する発表とプレゼンテーションの場としてのレベルが上がっていきます。

(Source:http://www.real-projects.org/do-it-yourself/6-reading-and-response/

HTHのPBLのプログラム作成方法および実施プロセスは基本的にこのロン・バーガーの考え方をベースとして、それに学校実践からの知見を組み合わせながら、より使いやすく洗練されたものになっているという理解です。細かいところは1月4-6日に東京で実施された研修の報告として次回書こうと思います。

<文化の重要性>

さて、学校文化とは一体何なのでしょうか? なぜ学校文化がそれほど大事なのでしょうか。ロン・バーガーは生徒たちのアウトプットは家族の文化、近所の文化、学校の文化に大きく影響を受けると指摘します。生徒たちには無論それぞれのポテンシャルがあるが、態度や成果というものは一般的に周囲の文化によって形作られるという指摘は私も含め、納得する方は多いのではないでしょうか。

子どもはその文化に合わせて態度や努力を調整してしまいます。例えば、学校の中で頑張っても、それがかっこ悪い、と周りの生徒からバカにされたり最悪いじめられたりすると子どもはあっという間に努力しなくなってしまいます。逆も然りであり、だからこそ学校はその文化を課題に一生懸命に取り組むことが安全でカッコいいという風に意識的に形成することが必要だと指摘します。

私自身、特に中学校以上は頑張ることは格好の悪いことだという学校文化の中で、斜に構えた態度でティーンエイジャーの世代を過ごしてしまいましたが、そうすることで大きな学びのチャンスを失っていたと思います。(部活で頑張っている子や、相応のチャレンジに挑戦している場合はちょっと違うかもしれませんね)

そうした態度になってしまうのは、勿論学校だけが原因ではありません。家庭や社会の環境も影響します。「Fostering an Ethic of Excellence」という論考では、ロン・バーガーの教え子の一例として、家庭環境やもともとなじんでいたコミュニティの環境、過去の学校の影響でジェイソンという学校が嫌いで態度が悪かった小学校6年生の男の子が出てきますが、彼は努力とエクセレンスに向かう教室文化の中で周りの子どもたちの彼に対する態度によって少しずつ変化し、変容を遂げていきました。

HTHは前述の通り公立学校であり、様々な人種、経済的なバックグラウンドを持つ子供たちが集まります。その中には家庭で十分な体験・経験を受けていない子ども、他の学校で押さえつけられて自分を自由に表現できない子どももいます。必ずしもエクセレンスに向かわない文化で育った子供たちも多く集まる学校で、HTHがどのように現在のような文化を築き上げてきたかについては、また記述していきたいと思います。

(写真:藤原さと)

<参考文献>

「Fostering an Ethic of Excellence」Ron Berger

※上記の元になる本

「Ethic of Excellence -Building a Culture of Craftsmanship with Students」Ron Berger

https://www.heinemann.com/products/e00596.aspx

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