home > Blog > 藤原 さと > デューイの考え方を尊重し、学びのコミュニティを体現する伝統校–Hanahau’oli

 

引き続き、先週のハワイの学校視察のレポートとなります。ハナハウオリは英語で“Joyous Work” 日本語だとぴったりした言葉が見当たらないのですが、「喜びに満ちた取り組み」でしょうか。設立100年の伝統私立校です。プレスクールといって、年中さんから小学校6年生までの210名が学んでいます。

 

【ハワイのプログレッシブ伝統校】

 

プログレッシブ(進歩的)というと、少し分かりにくいかもしれませんが、アメリカの教育哲学者のジョン・デューイが経験主義・プラグマティズムの考え方を教育にとりいれ、自身も1896年にラボスクールを立ち上げて実践を広めた教育運動に端を発します。それまでの黒板に向かって先生の講義を聴くだけのスタイルから、子どもたちが自ら問いを立てたり、実際の活動に携わることによって、積極的に学んでいくという大転換を提案しました。その背景には、「人は人から教えてもらうのではなく、自らの経験を重ねることによってこそ学び、変容し、成長する」という考え方があります。

 

私自身2014年から2017年までアメリカにいて多くの学校を視察しましたが、その実践の質や内容は様々であっても、プログレッシブは教員養成課程の中心となる考え方であり、アメリカの教育は公立であってもデューイの考え方は、根幹にあると感じています。国際バカロレアやこども哲学、もちろんプロジェクト型学習にも応用されており、フィンランドなどの北欧諸国、中国を含めたアジア諸国など多くの国がこの考え方を導入し、貪欲に学んでいます。ただ、現実には、理想的な部分も多く、実際には学校運営の効率などを考えた場合に、講義型の一斉授業がある程度以上に入っている場合もあるし、「子ども主導」というのは、一つ間違えれば野放しにして「遊んでいるだけ」ということにもなりかねず、本当に意味があり、変容と成長が実現する学びが実践されているかは教師の力量や哲学、学校を取り巻く環境に依存します。日本では、大正自由教育として日本に入ってきましたが、第二次世界大戦を挟み、戦後の公教育の中では残念ながら中心となる教育のあり方にはなりませんでした。

プログレッシブな学校といっても実際には、質的も内容もまちまちなものですが、ハナハウオリは、ハワイの文化も大切にしており、構成された良質なプロジェクト学習と子どもたちの自由で楽しげな姿が両立する本当に素晴らしい学校でした。歴史的にも、設立当初からデューイのラボと深い繋がりのあったシカゴのフランシス・パーカースクールから教師を複数招聘して、カリキュラムを作っていたそうです。(フランシス・パーカーのことをデューイは「進歩主義教育運動の父」と呼んでいます)1964年には晩年のデューイもこの学校を訪れ、「こここそ、自分の考えが体現された学校だ」と評価したそう。ご紹介できればと思います。

 

【8年間を通じて子どもたちはどのように成長するか】

 

1)プレスクール(年中)

ハナハウリの八年間は充分に遊ぶことから始まります。クッキーを焼いたり、かたつむりを捕まえてきたり、工具の使い方を覚えたりと楽しく過ごしますが、お友達とのやりとりを緩やかにスタートしながら、ハナハウリの環境に慣れ、自分自身を知り、コミュニティの一員として責任を持つという生活の基礎を築きます。本については、6年生が読み聞かせをしてくれます。

(どの教室もグループに分かれながらもオープンな設計になっています)

 

2)年長―1年生

年長さんから上は2学年混合のクラスになり、プロジェクトがスタートします。年長と小学校1年生は「シェルターは人が(根源的に)必要とするものである」ということをテーマに、段ボールなどを使って、自分自身のシェルターを作っていました。作りながら、どうして人にはシェルターが必要なのか、そのためにどういうシェルターにする必要があるのか、などを学んでいきます。自分の家のことを調べたり、蟻の巣の構造を学んだり、実際に日本の津波の後に作られた一時的な避難所のことを学んだり、建物の工事現場に行って、立ち上がっていく様子を見たりしながら、その経験を重ね合わせて、自分のシェルターを作るのです。

(子どもたちが作っているシェルターの例)

 

 

3)2−3年生

このクラスはちょうど外に出ており、様子が見れなかったのですが、壁には生徒たちが描いた学校全体の見取り図などが貼ってあり、プロジェクトテーマとしては「”家族、学校、都市”のコミュニティ」をやっていたようです。ちなみに、1学年26名程度、2学年混合で50名を超える生徒が同じ部屋で過ごしますが、3つのグループに分かれて、ティームティーチングを行います。(学生教員も受け入れています)レイアウトは、年中から5年生までは同じで、完全にユニットを仕切らず、お互いのグループが何をしているかわかるような形で大きなスペースを分割して使っています。

(学校の見取り図)

 

4)4−5年生

2−3年生のプロジェクトでは、自分の身近なコミュニティを探索するのですが、4−5年生になると世界全体がテーマの対象となります。プロジェクトテーマは「Migration(移民)」で歴史や科学を取り入れながら、新しい環境を求めて移動する移民が直面する課題はなんなのか、新しい環境に適応するためにどのようなことが必要なのか、そこで発生するサバイバルとは何か、というようなことを学んでいます。ちょうど見学した時は、プロジェクトに関わる問いをみんなで考えているところでした。

 

5)6年生

最終学年の6年生は、ハナハウリの八年間の集大成になります。現時点では中学校から上はない学校のため、みんな違う学校へと巣立っていきますが、6年生は最高学年として、学校運営に関わっていきます。上述のように年中さんへの読み聞かせも行うし、ランチの時間には下の学年の面倒をみたり、毎朝、学校の全員で集まるときの司会進行をしたりします。

(朝の朝礼の様子。学校全体の朝礼は6年生がリードします)

 

【コミュニティ形成を主軸におく】

 

実は、ハワイは全米でもっとも人種が多様な州と言われています。もともと多民族であることに加え、移民も多いため、世界的にみてもその多様さはダントツです。そのような中で、この学校ではコミュニティの一員としての自覚を持って生きるということにとてもフォーカスして全体のカリキュラムが作られていました。

生徒が200人程度であってもそのまま教室で学んでしまうと、お互いのことをよく知ることはできません。でも、ここでは学年を超えてコミュニケーションを取れるようなたくさんの配慮があり、全員が全員を良く知っている関係になるようにしていました。

確かに知らないから相手を傷つけても心が痛まないということはよくあると思います。自分の属するコミュニティの人を全て知り、その一人ひとりがかけがえのない人だと感じる経験は将来にわたってとても大事な経験になるはずです。

さらに生徒は自分の「足跡」をこの学校に残していくことで時間軸を超えたコミュニティの一員となります。例えば、自分の誕生日に図書館に本をプレゼントする文化があるそうなのですが、卒業して何年経っても、自分が贈った本は学校の図書館にあるそうです。また卒業のときには自分の名前が入った自分だけのデザインプレートを贈るのですが、それがずっと学校のどこかにディスプレイとして残るそうです。

 

*****

 

学校見学の時にみるポイントは、もちろん校舎が素敵だとか、カリキュラムが優れているなどもあるのですが、言語化のしにくい部分で「どこか一味違う」という部分を感じ取りたいと思っています。私の感覚だと、豊かな学びをしている子どもたちは、どこか豊かな表情をしているものです。「楽しい」だけとも違います。自分が成長していることの喜びをどこかで感じています。

優れた学校というのは「豊かなコミュニティ」が形成されており、「豊かさが何かを理解する大人たち」に囲まれ、「子どもたちが豊かだ」と感じている学校なのではないか、と今回の訪問で思いました。

いくら歴史的にデューイに所縁があるといっても、情熱が続かなければ、学校の転落はあっという間です。100年もの間、これだけの学びのコミュニティーを創り上げてきたというのは、本当に尊敬に値することです。新しいものをどんどん取り入れることも重要ですが、大切にしたいことがブレないということも忘れてはいけないのでしょう。

今回のハワイの学校のレポートはまずはここまでで。今回、公立の小学校における子ども哲学対話の授業も見ることができたのですが、こちらは少し後でまとめたいと思います。

 

<今回視察したハワイのほかの学校のレポートはこちらから>

サステイナビリティーに対する本質的な問いに向かう公立学校―SEEQS

イノベーションを続けるハワイの伝統校―Mid-Pacific Institute

 

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