藤原さとです。
新型コロナウイルスの感染拡大が大変なことになっています。本日、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が出されました。他の事業者も同じでしょうが、私たちもオンライン化できる研修をオンライン化する、運営はリモートで行う、残念ながらオンライン化できないものはキャンセルする、という対応に追われています。知人の医師は運営する在宅医療のクリニックで診療を続けるために、防護服の代わりにレインコートやシャワーキャップを買い込んで着脱の練習をスタッフとしています。フリーランスの友人も明日の生活を心配しているし、アメリカの友人も皆家にいるので、時差を気にせずオンラインで話せるようになりましたが、株価や原油価格の暴落の中でレイオフの恐怖で涙ぐんでいる友人、夫の仕事が定まらず、子どもが手術を要する病気なのに病院に連れて行くこともできない友人がいて、自己責任社会の恐ろしさを腹の底から感じます。医療にかかわらず、行政や食料・日用品の製造販売、交通機関などライフラインに関わる仕事をされている人には本当に頭が上がりません。
そして、学校は新年度を迎えました。政府の対応は一貫しているとはいえないため、自治体も学校も混乱しているかと思います。ただ、それを責めてもしょうがない。こうした時こそ「こたえのない課題」に立ち向かうマインドセットが非常に重要だと感じています。だれもが疲弊する中で、どうしたら一歩でも前に足を踏み出せるのか。こんな時に一番いけないのが「指示待ち」です。政府が正しいとは限りません。一部正しいかもしれないけど、一部間違っているかもしれません。そんな時に「指示を待ち」「指示に従っている」と、命を奪われるし、だれかの命を奪ってしまうかもしれない。怖いかもしれないけど、声をあげなくてはいけない、指示を待っている間に多くの命が奪われた東日本大震災の教訓を忘れてはいけない、それが今なのだと感じています。
【学校経営・学級経営の大切さ】
こんな時に、とても大事なのがリーダーシップ。ここでいうリーダーシップは、教育長だとか校長だけが持つリーダーシップではありません。学校の先生一人ひとりが持つリーダーシップであり、さらにいうと、保護者や子どもたち、学校を育てる地域社会のリーダーシップが必要です。
そんなことを考えていた時に村上聡恵先生・岩瀬直樹先生の本をいただき、読んでいたら現場で活用できる多くのヒントがあると思いましたので、ご紹介したいと思います。
題名は「校内研究・研修で職員室が変わった!―2年間で学び続ける組織に変わった小金井三小の軌跡」なのですが、実は、昨年に9月私は公開授業でこの学校を訪れて、丸一日6年生の授業を見せて頂いています。
驚愕でした。午前のプロジェクト型学習で皆が生き生きしていたのはもちろんのこと、一番驚いたのは「自立学習」といって、自分でやりたい学習を決めて学ぶ時間がありましたが、自分たちで教科書を読み、自分でやることを決め、自分のペースで勉強していたこと。テストもありましたが、自分ができると思った時点で自分でテストを箱から取り出し、解いたら提出します。歴史の授業ではみんな自分でテーマを決めて個人プロジェクトを進める姿が見られました。また、算数の学習はなんと講義がありません(一斉指導を選択することも可能ですが、多くの子は自由進度を選択します)。そこでは、分かっている子がわからない子に教えたり、先生が声をはりあげなくても、子どもたちは落ち着いて自分のすることに取り組んでいます。
さらに驚いたのが、著者の村上先生を筆頭に6年生4クラスの4人の先生が自分のクラスだけを受け持つのではなくて、違うクラスの子どもたちも単元ごとに入れ替えながら見ていって、全クラスの子どもたちを4名の先生たちがチームで見ていることでした。
よく考えてみれば非常に合理的です。一つの教室を一人の先生が見てしまうとそこは閉鎖空間になり、新しい実践を気軽に試してみることもできたりする一方で、どんなに困った状況になっても助けを求めにくくなります。また、いろいろな子がいる中には先生も人間ですから相性がいい悪いもある中で、どうやってその子の心を開いていけばよいか悩むこともあるでしょう。またトラブルが起きた時も一人で抱え込みがちです。でも、ここでは4人の先生が学年全員の子を「自分の生徒」として見守るので話し合って解決することが可能です。
2年前はこの学校はどこにでもある普通の小学校だったそうです。そうした学校が短期間でここまで変わる、その秘密の詳細は本を読んでいただくのが良いと思いますが、そこにはどんなリーダーシップがあったのでしょうか。ちなみに、私が同校を訪れたのは2019年の9月ですから、2年間の校内研究が終わった後しばらく経ってからです。でも、あれだけの熱量、関係性、そして放課後に受けた校内研修での先生たちの前向きな様子。研究の終わりが全ての終わりでなかったことも付け加えておきたいと思います。
【リーダーシップその1:学校や教師が学び続ける組織にする】
「学校改革」で一番大切なことはなんでしょうか?それは岩瀬直樹先生も書かれていますが、一番のキモは「教師の学び」に焦点を当てることではないかと私も思います。
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教師が自分たちの成長に向けて意欲的に学び始め、教師同士が学び合い、教え合う学校になれば、その姿は子どものモデルになり、日々の授業も変化する(p20)
学校が変わるためには、子どもの学習どうこうの前に、まずは職員室の改革から(p22)―
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今の職員室は、残念ながら「指示待ち」のことも多いでしょう。「やらされる」ことが圧倒的に多く、「やらされ感」に塗れています。でも、そこに本当になにか自分の自由意志でできることは何もないのでしょうか。この本では5つのアプローチが示されています。
1:日常的な対話の機会
2:「学び手」になってみる
3:入れ子構造 (研修でやったことが即実践につながるように設計)
4:実践コミュニティをつくる
5:みんなの研修をみんなでつくる
「こんな非常時に何をいっているの!?」と思われるかもしれませんが、こんな時だからこそ、学校は「学び合い、学習する組織」にならなければならないし、そうなるチャンスではないかと思うのです。
授業がいつから始まるかわからない、子どもたちは置いてけぼりになる、母子家庭・共働き家庭の子はどうするの?オンラインにアクセスできない子たちの学習格差が浮き彫りになるだろう・・。このままだと夏休みも冬休みも無くなってしまうのだろうか。。。
こういった問いに圧倒されるときだからこそ「対話」「対話」「対話」ではないでしょうか。そして、だれも答えなんてくれないわけですから、自分たちが学んでいかなければならない。そして学んだことは共有知として学び合わなければならない。
もちろん小金井三小の校長先生、副校長先生は本を拝読する限りサーバントリーダーシップのお手本のような方で、ラッキーだったともいえるでしょう。たしかに村上先生は素晴らしい先生です。岩瀬先生のサポートを受けられたことも幸運だと思います。でも、「私たちにはそういう条件が整っていないから」と逃げてしまっては、何も起きません。
たぶん、校長先生も副校長先生も不安なはず。だったら、一緒に考えましょう。だれも何も手立てを知らない、という今の状況は、「教えられることがない」ということに直結しますので、とにかく新しいことに挑戦する条件が整っている、ともいえるのです。
いままで学校は「過去学んだこと」を「伝える」場でした。でもこれからは子どもたちも、保護者も地域もみんな一緒にリアルタイムで学んでいかなければならない。村上先生の小金井三小でのリーダーシップはボトムアップで「一人ひとりが学ぶ」組織にするために環境を整える、ということでした。
(2019年夏、小金井三小の6年生の担任の先生全員がHigh Tech Highのプロジェクト型学習の研修にきてくれました。村上先生は受講者だったのですが、有料のプログラムなので、他の3人の先生はボランティアということで一緒に色々手伝ってもらいながら、学びに参加しました。左から本にも出てくる、下浅先生、(藤原)、高橋先生、本田先生。こういうところからも学びの熱量が飛び抜けて高いのがわかります。)
【リーダーシップその2:困っている、と吐露し物語を共有する】
もう一つ、リーダーとしてとても大事なことは本音で語り合い、物語として共有すること。小金井三小の2年間のチャレンジもなにも一直線で進んできたわけではなく、様々な葛藤があったそうです。葛藤や混乱が生まれた時に、どう向き合うかがこうした組織経営の分かれ目になってくるのは、様々な経営理論が示すところですが、小金井三小の村上先生たちがはじめにしたことは「困っている」と伝えることでした。
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なぜこのような研修にしたかったのか、今何に困り、何に悩んでいるのか。研究主任、副主任の想い(ナラティブ(物語))が語られました。それは苦しい思いや痛みの自己開示を含むものでした。その語りは同僚の感情や思いに届きました。その吐露をきっかけに教員の対話が始まったのです (p35)
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研究が始まる直前の2016年度の時点では先生からこんな不安が寄せられていたそうです。
- 信頼ベースと言われても、どんな授業をすればよいのかイメージがわかない
- 研究授業までに積み上げていかなければならないことが多いのが心配
- 信頼っていったい何で測れるのか?
- 授業の評価はどうやって行うのか?
- 教科を絞らないと、何をやってよいのかわからないので不安
・・・・あるある、、ですよね。学校は「評価」でがんじがらめ。スタートは村上先生も全く一緒だったということになります。でも、そんな雰囲気も徐々に溶けていきます。そうすると職員室の先生たちも自分の想いや悩みを伝えはじめるのです。
まだまだ、研究1年目の10月、6年生の担任の本田先生と研究部の中村先生のやりとりが印象的です。
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本田先生:運動会のことを振り返りたいけれど、何をやったらよいかわからない。すごく迷っている
中村先生:本田さん、子どもに本音を語らせたいのなら、本田さんが本音で語らないとダメよ。
本田先生:今の6年生は低学年のころから教師が言ってほしいことをサラッと言えてしまう子どもたち。だから運動会の振り返りも“協力”とか“絆”とかもっともらしい、きれいな言葉を並べて子どもたちは満足してしまうのではないか。もっと、自分を出してほしい。自分は子どもたちの心の中にある言葉をもっと引き出したい。
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このやりとりを周りで聞いていた先生たちは思わずハッとさせられたそうです。私たちは教室で本音で語れているだろうか。私たちが教室で日常的に語っていることは子どもたちにどんな風に届いているのだろう、と。ここでも小さなリーダーシップが生まれ出ているのが分かるでしょうか。
【リーダーシップその3:波を絶やさない】
最後に大事だと思うのは、改革の火種を絶やさないこと。公立校での組織改革は本当に難しいといいます。校長先生も副校長先生も数年で異動してしまうし、先生も然りです。なので、学校改革をしても仕方がない、と諦めている先生もたくさんいます。
また、閉鎖的で抑圧的な組織の中ではどうしても外からは見えにくい特定の教室で新しい実践が実験的になされ、それが共有されない。また実験的実践によって「自ら学ぶ」ことを知った子どもたちが、引き継いだ教師の授業スタイルと会わずに授業崩壊が起きることでもとの学年の担任が非難される、というようなループもあちらこちらで見られる現象です。
しかし、ここでも「絶望」は禁物です。私が2014年から2017年までアメリカで見てきた公教育の現場では、教師の異動がないことで、いいこともありましたが、悪いこともありました。良い地域の良い学校では良い校長がいて、良い教師を求めることができ、経営も優れているため教師の定着率がよい一方で、貧困地域の学校では先生は一年と持たずに次々と辞めていき、荒れ放題でした。物事にはなんでも二面性があります。
日本の公立校のシステムであれば、私は個人的に「波をたてる」がキーワードだと思っています。小さくていいから波を立て続ける。そしたらそれに感応した同僚が波をたてる、それに感応した子どもたちが波を立て始める。。一度発生した波はおさまるまでにすこしタイムラグがあります。誰かが波を立て続ければ、波は立ち続けるし、それがプールから池になり湖になれば風も吹いてさらに波が続くのかもしれません。それはいずれ学校の「文化」になります。
変化を継続させるのは優れた「手法」でも「フレームワーク」でもありません。それはとても有用な一方で、手入れをし続けないと引き継がれていく間に劣化し、陳腐化していくものです。静的なものの害悪はみな嫌というほど感じているのではないでしょうか。現場は常に動的でなければならない、が鉄則です。
ご存知の方も多いかと思いますが、例えば長野県の伊那小では戦前から非常に先進的なプロジェクト型学習が行われ、今でもそれが継続し、全国から視察者が訪れます。伊那小では波が地域も巻き込んで途絶えずずっとたち続けているのではないでしょうか。たとえば、子どもたち自身に「学び」がしっかりと芽生えていれば、子どもたちの姿から先生たちのほうがはっと気づかされて、子どもたちに促される形で自己変容がおきてきます。そこまできたら、あとは“学び続けながら”自走です。
ここで見られるのはリーダーが起こした小さな波が伝播し、また小さなリーダーが生まれ、また生まれ、波が静かに立ち続ける状態です。この本をスーパー先生たちの物語と受け取ったら、読んだ時間がもったいない。今だからこそ読むべき本であり、今だからこそ立ち上がるべきだと思います。学校はもう変わらなければなりません。そんなこともう分かりきっています。新型コロナウイルスも、数々の外的環境も学校に「変われ」と怒鳴り込んできているのが今の状況です。それなのに、その変化を止めてしまっているのは、一体誰なのでしょうか。
改めて、一人ひとりがリーダーになることがこの時代、求められていると思います。今日はこの辺で。
<おまけ>
この本の執筆者である村上聡恵先生、岩瀬直樹先生にインタビューしました。こちらからご覧ください。
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