物語を紡ぐことで組織を変えるー岩瀬直樹先生・村上聡恵先生インタビュー

 

「校内研究・研修で職員室が変わった!―2年間で学び続ける組織に変わった小金井三小の軌跡」について書評的なブログを書いたのですが、ちょうど本を書かれた村上聡恵先生、岩瀬直樹先生に別件でお話しする機会があり、本についてのお話も伺ってしまったので、インタビューとして掲載します。(本をまだ読まれていない方は、ブログで流れを把握することをお勧めします)

 

 

藤原: 本、ありがとうございました。小金井三小(以下三小)の変化は本当に驚きでした。今年は学習指導要領が変わってそもそも大きく変化する年なのに、さらに新型コロナウイルスの感染拡大があって、どう考えても今までの学校組織では変化に太刀打ちできないと思っています。今後、組織を変えていくために一番大事なことは何だと思いますか?



岩瀬先生(以下敬称略):よりよく変わっていくということに確信を持ち続けること」ではないかと思います。僕はずっとダメダメ教員だったんだけど、三十過ぎて、研究主任して苦労してから「あ、自分が変化した」という経験をし、「この年でも人って変化していけるんだ」という実感を持ったことが自分にとってとても大きかった。人の成長や変化への確信が大事で、そうすると物事が違って見えてくるんです。

公立って一見すると絶望的な状況に見えるんだけど、そんなことはなくて、変えられることはたくさんある。ちょっと動いてみると、ちょっとした波紋が広がってそれに反応する人たちが絶対にあらわれてくるんですよね。そういう人たちのポジティブなエネルギーやより良くしたいという力を信じて動き続けると、変わっていく、というのが一番大事なところだと思います。これは公立も私立も変わらないんだと思います。

あと、いきなり大きく変えようとしないことは意外と大事です。小さく変えていくこと。それが思いもかけない方向にどんどん繋がるし、「結果として」大きな変化になります。やれないことにフォーカスするのではなく、手元にあるものを生かすことです。村上先生がやったことってまさにそういうことだと思います。


藤原: 村上先生の自己開示のプロセスをどのように感じていますか?

 

岩瀬: 村上さんが自己開示できたというのは相手を信頼しているから出来ること。職場の力を信じ、同僚が受け止めてくれているとどこかで信じられているから自己開示できるわけで、それは相手への信頼だと思うんですよね。その信頼を向けられたら呼応してくる人は絶対にいる。自己開示とか物語の共有、というのはそういうことではないかと思います。

村上先生の自己開示の物語が、受け取った人の内省を促し、自分はどうだろう、自分だったらどうだろうと自分に引きつけていくんです。そこにナラティブ(物語)の力を感じます。人は誰かのナラティブに触れて、ぐっと一歩すすめることが出来る。それは人には力がある、ということに他ならないんです。


藤原:「変わっていくことの確信」を持ち続けていくには、壁にぶち当たることもあるけど、そういう時にこそ物語を共有していく。それは誰か一人の物語だけではなくて、みんなの物語が共振していくことにあるのかもしれないですね。


岩瀬:そうなんです。だから教員同士が出会った時に、「なぜ教員になったのか」とか「いままでで一番嬉しかったこと」などを共有するのはとても大事なことなんです。僕も学年はじまりは「生まれていままでどんな人生を歩んできたか」ということをお互い共有することから始めているのですが、そうすると関係性が変わってくる。だれしもが豊かな物語を持ち、これからも繋がっていくんだと考えると、これから先一緒に歩んでいけることが見つかるような気がするんですよね。それはこんな時代だからこそ、こんな状況だからこそ、大事になってくると思っています。

そして、「こうなりたい」という物語を共有したいですよね。そうするとやりたいことも見つかってくる。そのための一歩目は絶対にあるから。だから、風越学園をスタートするときも僕と本城(風越学園理事長)は「情景」というものを描いたんですよね。それは今でも自分たちの核にある。公立でも小さくやれることはたくさんあるし、この状況だからこそやれることもたくさんある。今までだったら手をつけられなかったこと、やめられなかったことを一旦脇に置いて考えることもできる。目の前に子どもがいるのでいいチャンスにしていかなければならないんですよね。

 

藤原:そうなると、物語の中に子どもたちも入ってきて、膨らんでいく感じですよね。そして、こういう時期だからこそリーダーシップが必要ですよね。今、全員がリーダーシップをもたないとどうにもならない時代になっています。ここで、村上先生にお伺いしたいのですが、公立はある人が改革しても数年で人事異動があるからその改革が継続しない、と良く言われます。その辺どのように感じていらっしゃりますか?



村上先生(以下敬称略): そうですね。ある時までは(もし自分がこの学校を離れてしまったら)やってきたことが消えてしまうのではないかと心配していたんですよね。でも後半に入って、消える・・というか「変わる」のは当然のこととして受け止めなければならない、と思い始めました。でも三小の実践をそのまま継続することを考えるよりも、それぞれの先生がこの何年間かでやってきたことをそのマインドを持って、いつかは異動したとしても、その先でいつか花がひらけばいいのかな、と思うようになりました。

たとえば三小は今過渡期で、今年度異動した先生がたくさんいたんです。この研究に対する思いも多様で…。いろんな考え方がある中で、お互いに共存するにはどんな方法があるのだろうか、年明けから3ヶ月模索してきました。今までやってきたことを続けていくのは無理かなと思ったこともあったけれども、先生たちが「やっぱり自分たちのやりたいことはこれだ」と言ってくれて、「これを失いたくない」と声を上げ始めました。そのマインドさえあれば、どこに行ったとしても、それが種となって、どこかで成果になると信じています。

 

藤原:「これを失いたくない」の「これ」は何ですか?

 

村上:私たちは自分たちがボトムアップで作り上げてきた、という自負があるんですよね。「わたしたちがやりたいことをやりたい」という想いがある、そういう組織のあり方としての理想像のことです。



藤原:なるほど。やっぱり(戦前からのプロジェクト型学習が根強く残る)長野の伊那小信濃教育を見ていると、何か途絶えないものが残っているし、それは、ボトムアップから波及したものが子どもまでに到達しているからこそ強いのだ、という気がしますね。

 

村上:そうなんです。私も今年伊那小に行ったのですが、一つ一つの実践というよりも、どうしたらこうやって文化が受け継がれていくんだろうとか、学校の文化として続いていく要素は何なんだろう、と考えさせられました。何がそうさせるんだろう、伊那小との違いは何なんだろう、と。

 

岩瀬:(文化にしていく中で)一つ大きいと思っているのは、村上さんが今回の研究を振り返る形で一つの本にまとめた時に、ゲラを職場の人に読んでもらっているんですよね。そうすると自分たちがどんな物語を紡いできたかということが言語化されてもう一度自分の中に入り込んでくるはずなんです。

「ああ、こういう中を生きてきて、つくってきたんだ」「だったら、この先のストーリーはこうなっていくといいな」ということが見えてきたのではないでしょうか。だからこそ先生たちも動いたのではないでしょうか。(村上さんの)研究主任引き継ぐ人もはじめすごく嫌がっていたと聞いていたけど、そりゃプレッシャーですよね。でもそれをやっぱりやってみよう、と思ったのは記録を読んで共有し、「この続きをわたしたちは書いていくんだ」って思えたというのは大きいと思う。通り過ぎたことはみんな忘れるし、不安が先走る。だからこそ、たしかに歩んだこの3年の記録はとても大切だと思っています。

 

藤原:やはり、物語の力は大きいですね。最後にメッセージをお願いしてもいいですか?

 

岩瀬:僕はシンプルに「常に変化する」とか「より良くなるための一歩はつねに手元にある」でしょうか。自分の歩き方次第で、変わっていくことがたくさんある。逆にいうとそれしかないと思うんですよね。手の中にあることからスタートすることがいつか大きな変化につながる。三小だって本当に小さな一歩から始めたわけで、それはどこでも一緒だと思います。

 

村上:なんだろうなぁ、、。

 

藤原:学校改革の現場って、常に常に批判にさらされているし、自分の心を萎えさせてしまうようなことが次から次へと起こる、、という印象があります。それをどうして踏みとどまれるのか、どうやったら心の火を消さずにすむのかということに興味があります。

 

村上:そうですね。。結局ね、面白かったんですよ

 

岩瀬:そうそう、同じこと言おうと思っていた!自分が面白いことをやっているかどうかにつきる。「ねばならぬ」だけだと力尽きるけど、結局面白いから続く。だからちょっとした変化でとても興奮するし、うまくいかないとどうしたらいいかな、って思う。「遊び」という言葉は適切ではないかもしれないけど、「学校を変えなきゃ」とか「自分が認められなきゃ」とか「これを広げなきゃ」とか「ねばならぬ」になった瞬間に色々(ネガティブな)ことが聞こえてくると、力尽きちゃうんじゃないかな、と思います。やっぱり「〜たい」からスタートすることは圧倒的に大事だと思います。

 

藤原:そういう「面白い」「〜たい」が共有できる人が何人かいる、という確信というものは持てていますか?

 

岩瀬:三小だと面白がる人が増えていったよね。

 

村上:そうですね。はじめは、2−3人でわーわ楽しんでいたんです。それが伝染していく感じでした。あそこだけ楽しんでる、そしたら自分もうっかり入っちゃった、、そんな感じだったと思います。そんな感覚で広がっていきました。特段私のほうでは「こんな面白いことやってます」なんてことは言ってなかったんですけど、そういう面白そうなことが職員室の話題になりはじめたらしめたものなんではないかと思います

 

岩瀬:楽しそうにしている人に人は反応する。苦しそうな人に「こうしましょう!」って言われても苦しいから。

 

藤原:こういう危機の時も、それを「苦しい」と思っちゃって、「こうしなきゃいけない」「ああしなきゃいけない」となると、途端に辛くなりますよね。不謹慎な言い方かもしれないけれど、それを逆手にとって楽しんでしまうくらいでないと、これから乗り切れないかもしれないですね。

 

村上:そういうことでいうと、この間の3月の卒業式はすごく楽しかったんです、私たち。卒業式も(新型コロナの流行で休校になり)1時間しかできません、保護者も2名まで、在校生も入れられません、と言われ。。次から次へと制約が課せられ、あれもできない、これもできないとなったんですが、それが「プロジェクト」になったんです。卒業対策のメンバーが「これならできる」「あれならできる」となって、「制約の中で最大限できることは何だろう?」という問いに変わりました。それを見て周りの人たちも入ってきて、膨らんでいきました。

そして、最後に「これって、わたしたちがやったプロジェクトだったよね」と先生たちがみんな言っていて。はじめて自分たちで味わった「ほんもの」の感覚でした。なんか楽しかったね、って。すごくいい時間だったし、このプロセスが本当に楽しかった。大変だったかもしれないけれど、あの3週間は苦ではなくて、やりとりも打ちひしがれた感じではなくて、職員室も明るかった。新しいものをつくった、という実感がありました。

 

藤原:こ、これは、、コロナプロジェクトにするしかないかも。。

 

村上:授業をオンラインにする、というのもプロジェクトとして楽しまないと。この状況を楽しんで、どこまで面白いことができるか、というふうに考え方を変えたらワクワクしてきました。「決めにいかなくちゃ」と詰めていると、なんとなくショボンとしてきて。。決めるのは一緒でも楽しいモチベーションで決めていきたいな、と。

 

藤原:本当ですよね。大変だけど、楽しみましょう!ありがとうございました。

 

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