home > Blog > 藤原 さと > いじめとけんかの違いはどう決める?

藤原さとです。

ひょんなことから、アメリカの現地公立高校の代理教師(Substitute Teacher)の依頼を頂きました。

といっても、正規の先生のお休みの時に臨時でクラスを受け持つもので、私の場合は一か月に一回やるかどうかという予定です。

とはいえ、その学校のある教育区で書類審査を受け、オリエンテーションを受け、10時間弱のオンライン講習を受けて、正式に代理講師として働くことが許されるため、ここしばらく空き時間を使って準備をしていました。

ということで、先月オンライン講習を受けたのですが、中身は基本的に学校で起きるリスク管理や、コンプライアンスに関するもの。たとえば、子供がクラス内で血を流したときに感染の可能性の観点からどのように扱うべきかとか、アレルギー対応、教員間や生徒間、教員-生徒間のセクシュアルハラスメントの対応、子供の虐待を認知した時の教師としての行動規範・・などなどです。

その中で、「いじめ(bullying)」をどのように定義するか、「いじめ」と「喧嘩(fighting)」の違いはなにか、教師はどのような責務を負い、どのような対策を講じるべきかというセッションが興味深かったので、少しご紹介したいと思います※。

<いじめの定義>

さて、私たちのいる教育区での「いじめ(Bullying)」の定義は以下です。

 

1) 傷づけられているという事実: HARM

(誰かが傷つけられているという事実がある。身体的・社会的・精神的なものを含む)

2) 非対等/不公正な関係性: UNFAIR MATCH

(片方の側が、身体的、社会的、もしくは言葉で争えるだけのスキルがない)

3) 繰り返される行為: REPEATED

(ある一定期間以上、HARMとUNFAIR MATCHが存在している)

 

いじめ定義2

 

そして、面白いのが、この3つの条件をすべて満たしていてはじめて「いじめ」とみなされると定義されているところです。

つまり、

・誰かが何度か傷つけられていても(HARM)、非対等な関係でなければ(UNFAIR MATCH)、「いじめ」とはみなされない。

・誰かが傷つき、非対等な関係があったとしても、一回きりの関係であれば、「いじめ」とはみなされない。

・逆にいえば、いじめる側といじめられる側がくるくると入れ替わっても、どちらかが傷つき、対等な関係でなく、繰り返されれれば「いじめ」とみなされる。

ということです。

 

では、日本の「いじめ」の定義はなんでしょうか。

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「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。 (文科省※※)

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明らかに、こちらの教育区のほうが定義が狭く、日本のほうが広いですね。

 

<定義はなんのためにあるのか?>

講習では、色々なケースがアニメーションで示され、「これはいじめかけんかか?」という設問に、どんどん答えていく形になっていましたが、私の感覚だと、これいじめかなぁ、、と迷うようなものでも、けんかだったりします。

 

いじめ定義1

(余談ですが、このケースアニメーションのいじめる子は本当に意地悪で・・ある意味良くできています。普通に成績もよくお友達もいた子がある子をかばったことが原因で、あり得ない噂とSNSで追い込まれ、転落していく様子など、見ているこちらも辛くなってしまうようなものが多かったです。)

 

逆に、一旦「いじめ」と認められれば、先生は、積極介入することが求められます。以下いじめのサイクルのループにある4つの要素を一つ一つ壊していくことが要求されます。

 

1)孤独(Isolation)

2)人間性の喪失 (dehumanization)

3)無力化 (disempowerment)

4)避けることのできない状況 (inevitability)

 

具体的には、先生が寄り添ってあげて、見方になってあげることだけではなく、3)の無力化に抵抗するために、傍観者(bystandars)も巻き込んで、いじめられる側のパワーバランスを戻すために積極的に働きかけること、いじめる側への指導を通じてクラス内に変化を起こさせるためのたゆまぬ努力をすることが求められます。

つまり、「いじめ」の定義は、「いじめ解決のための実行プラン」と密接にリンクしており、教育の現場で現実的に教師が対応できる範囲までに、「いじめ」の定義を絞っていると言えます。逆に、一旦「いじめ」と定義したら、積極的な介入をする必要があります。非常に実用的で現実的です。

 

<定義の仕方で子供は救われるか?>

翻って、改めて現在の日本の定義をみてみましょう。

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「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

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確かに、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を与えられることは、好ましいことではありません。でも、それが一時のものだったら?友達同士のフェアな立場で攻撃を受けたとして、子供が自身の力で挽回できる可能性のあるケースだったら?

現場の教師は、こうしたケースのすべてに対応することになっているのでしょうか。また、こうしたトラブルに巻き込まれたとき、親はどうやって助けを求めることになるのでしょうか。

実は、日本は、平成18年に調査を行った結果、今の定義に変更されています。以前は上述のアメリカの当該教育区の定義に近いものでした。いろいろな事実関係をふまえ、関係者や識者の方が真剣に討議されて決まった変更かと思います。

ただ、上記の定義に従った場合、「いじめ」に該当する事例が多くなりすぎると、先生たちは大変ではないのでしょうか。正直この定義にあてはまるのが全て「いじめ」だったとして、それら全部に対応できなかった教師がいたとしても私の感覚では責められません。

余りに広い定義であることによって、逆に、親も「うちの子がいじめられている可能性があるので対処して欲しい」と却って言いにくくなってしまったりしないでしょうか。 また、学校側もこれは「対処するべきいじめ」か「対処の必要のないいじめ」かの議論をする負荷が生じてしまわないでしょうか。

 

<完璧なシステムはないが、最善のシステムはある>

ところで、先日、ポラリスこどもビジネススクールに6月に登壇頂くフランス出身のアルメル・カイエールさんにお話を伺ったとき、アメリカは非常に男性的(マスキュリン)な文化を持ち、一方日本は女性的(フェミニン)に感じる・・と仰ったのが、非常に印象的でした。

こちらに住んでいて思いますが、アメリカは確かに非常に男性的なのです。 移民が多く、全然違ったバックグラウンドと文化を持つ人たちの間で共通した認識が持てないと、何事も進まない国ということもありますが、現実に即した定義とルールを作ったら、「悪いことは悪い!実行あるのみ!」という感じです。 実際先生たちの介入は非常に早く、ストレートに入ってきます。(こちらの先生は定義されたトラブルの範囲は、自分の仕事と認識しているので、びっくりするほど対応が早いです)

でも、本当のこというと、そんなには簡単に割り切れないよ・・というのが真実ではあるのだと思います。いじめをするという「行為」は当然悪いですが、いじめをする子の家庭環境が決して良くないケースも多いというのは常識ですよね。

女性的文化を持っている日本は、母性的に、「困っている子は皆助けてあげたい」「いじめる側の子だって悩んでいるかもしれない」となっていきます。

でも、何のための「定義」なのか。でも、堂々巡りをしている間に、対応は遅れてしまわないのか?時に「定義のための定義」の議論になってはいないか。

結局、このような難しい問題は、何かを拾うと、何かは犠牲にしなければいけないという側面があります。 犠牲をどこまで許容できるのか。そもそも、犠牲って何なのか。そして、どんなシステムも完璧ではないので、どうやったら足りない部分を埋めるような運用ができるのか。

本当は、全ての困っている子供に対して手厚く対応できれば、一番です。でも、そんな夢のようなシステムはやはり現実としては存在しない、とも思います。(自分の子供がそういう立場になったら、とてもでないけど、そんなことは言っていられなくなると思いますが、敢えて!) そうしたら、完璧ではないけど、最善の方策はなにかという議論をしていくべきなのでしょう。

カイエールさんのおっしゃる通り、アメリカと日本はとても違う文化と感性を持っているので、アメリカのシステムのほうがいいから導入したほうがいい、というような暴力的な提案は私は出来ません。ただ、私たちの文化なりのもっといいやり方があるのかもしれません。いずれにしても、何を目的にして、どう行動するべきか・・の観点は忘れてはいけないのではないかと感じたのでした。

皆さんどう思われるでしょうか。

では本日はこの辺で。。

 

※アメリカでは、州法と連邦法があって、実際の運用は州によって少しずつ違います。私が受講した、SafeSchoolsというオンライン講義は、特定の州に限ったサービスではありませんが、各教育区が、採用の可否を独自に決定しています。

http://www.safeschools.com/

※※文科省は、H18年の調査によって、いじめの定義を変更しました。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/10/18/1304156_01.pdf

 

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藤原 さと