home > Blog > 藤原 さと > マイクロスクール~学びの個別化と協働学習のミックスの理想を追うアメリカの新しい学校の形とは?

 

藤原さとです。

前々回のブログで、学習形態を「個別学習」「一斉学習」「協働学習」に分けるとすると、アメリカの学校は、「個別学習」の要素が強い、「個別学習」と「協働学習」のミックスである、と書きました。

個人の個性を尊重するアメリカでは、「学びの個別化」は悲願です。いまでもクラス内を進度別に分けてグループ学習したり、Gifted & Talentedクラスを設けたり、いろいろな工夫がされています。近年増えてきているホームスクーリングも、学校の枠にとらわれず子どもの個性を最大限伸ばしたいという親の強い想いの現れです。

ただ、こうした、子供の個性と学びのペースに合わせた「学びの個別化」は悲願でありつつも、実際のクラスの中では、先生一人に20名以上の生徒という環境下でなかなか本質的なところまで実行できませんでした。しかし、ICT技術の進化がいよいよそれを実現させようとしています。

 

<学びの個別化~アダプティブラーニングって何?>

こうした学びの個別化を支える技術が「アダプティブラーニング」です。「アダプティブラーニング」は、日本語にすると「個人に最適化した学習」のことで、特にICTの技術を使って、学習者のログを丁寧にとり、得意不得意、学習進度・速度、解答速度、学習者のクセなど膨大なデータを拾っていきます。そうしたデータをもとに、学習内容だけでなく、学習方法までその個人に最適化させていきます。そうすることによって、学習をクリアしたらどんどん先に進め、間違えれば、後戻りをして学びなおしができるようになります。また学習者本人の認知の特質や、学ぶ内容に合わせて、学習コンテンツの順番が変わったり、映像コンテンツ、文書、ゲーム、コミュニケーションなどの多様な形態の学習コンテンツが画面上に出てくる・・といった仕組みです。

こうしたサービスを支えるのは、学習過程で得られる多量のデータを利用して学習者に最適なコンテンツを提示するアルゴリズムです。こうしたアルゴリズムを脳科学、心理学、数学等関連領域の専門家が、チームを組んで、システム開発のしのぎを削っているのが今のアメリカの姿だと思います。

こうしたアルゴリズム開発で有名なのが、米国Newton社です。つい先日ソフトバンクとベネッセホールディングスによる学習支援サービスの「Classi」がNewton社のシステムを実装したアダプティブラーニングの提供を本格的に開始すると発表しました。他の開発会社としては、Fishtree Inc.があり、スタディーサプリを推進するリクルートが出資を行っています。日本では「すらら」が独自のシステムを開発しています。

 

<マイクロスクール~学びの個別化と協働学習の新しい形>

アメリカでは今、こうしたICTを駆使した個別化学習と、それだけでは実現できない、プロジェクト型学習、他の生徒やコミュニティとの学習(協働学習)を組み合わせた試験的な学校が誕生し始めています。

こうした学校で注目を浴びているのが、2013年に元GoogleエンジニアのMaxVentillaが創設したAltSchoolです。この学校は、2014年にAndreessen Horowitzから$33Mil、フェイスブックCEOのマークザッカ―バーグ夫妻を含むトップ投資家から$100Milを超える多額の資金調達を行い、San Francisco、Palo Alto、New York Cityで開校。今後どんどん学校の数を増やしていく予定です。

AltSchoolは、生徒数100名前後の小規模学校であることを特徴の一つとしており、異年齢の子供たちが自分自身の学習進捗に合わせ一緒の教室で学びます。こうした学校はマイクロスクールと呼ばれています※。

Altschool-PBL

(参照:https://www.altschool.com/education#daily-schedule

 

あまり日本では知られていませんが、マイクロスクールの草分けとしては2009年にガス・オイルビジネスで財を成したシリアル起業家JeffSanderが妻と一緒にテキサス州オースチンで開校したActon Academyが代表的なもので、規模も現時点では一番大きいです。すでに南米を含むアメリカ大陸で15校が開校、2016年にさらにマレーシア、カナダ、パナマなどの海外校を含め、18校が開校予定です。

 

acton academy core skills

(参照:http://www.actonaudition.org/

 

また、Kahn Academyも、実験的に自社コンテンツを使ったマイクロスクール、Kahn Lab Academyをスタートしています※※。

これらの学校に共通するのは、オンライン学習時間は一日の間の一定時間に絞り、そのほかの大半の時間をグループで新しいものを作り上げるプロジェクト型の協働学習や、学校周辺地域とのコミュニティワーク、創造的学習の時間に使っていることです。単なるSTEMスクールや、プログラミングスクールではなく、全人的教育を目指しているところにその特徴があります。

たとえば、AltSchoolは教育内容を以下のように整理しています。

  • 全人的教育 (whole child education)
  • コミュニティーへの寄与 (community involvement)
  • 教科横断型プロジェクト学習 (transdisciplinary PBL)
  • 基礎学習の徹底 (rigorous academics)
  • 1-4 を包括する個別化学習 (Deeply Personalized learning)

 

altschool-education-chart

(参照:https://www.altschool.com/education

 

Acton Academyも、子供たちは、一人ひとりが将来世界を変える使命を持つヒーローだとし、ソクラテスメソッド、プロジェクト型学習を組み合わせた学習をしています。こうした学校では、先生は、“何かを教える人”ではなく、“Learning Guide(学びの水先人)”として子どもたちにかかわります。

 

<個別学習の未来>

オンライン上の教育コンテンツ、今相当な数のものが世界中に出回っています。MOOCs(Massive Open Online Courses)のようなオンライン講座は相当に質の良いものも含め、あっという間に世界に広がりました。しかしその一方で、オンライン学習の多くは独学なので、学びのモチベーションを保つことが大変難しく、終了率の低さも指摘されています。

そういった前提に立ち、今のキーワードは「エンゲージメント」となっています。いかに学習者を引き込み、注意を保ちながら学習を続けてもらえるかという環境整備が課題となっています。

ICT技術を使いながらも、少人数制で丁寧に子どもたちをサポートし、最大限の学びを実現しようとするマイクロスクールは、未来の学校の形として一つの提案となっています。

なお、前述した代表的なマイクロスクール、Acton Academyのヒューストンのアフィリエイト校に先日訪問してきました。子どもたちは、月曜日に自分で一週間の学習プランを立て、金曜日に振り返りをします。先生ならぬLearning Guideは、それぞれの子のプランについて、目的、チャレンジについて話し合い、コンフォートゾーンを自分自身の意思で抜けるように導いていきます。自分たちで、クラス・学校のルールを話し合って決め、決定事項は自分たちのサインをつけて壁に貼っていました。プロジェクトは6週間前後を1単位として取り組みます。

 

talent-unbound-picture

(参照:http://www.talentunbound.org/

なんと、最近自主的に日本クラブができたそうで、グループで日本のものを持ち寄ったり調べたりしているということで、ボランティアとして、少しかかわることになるかもしれません。もう少しわかってきたらまた追加報告をしたいと思います。

それでは今日はこの辺で。

 

※2016年5月現時点でマイクロスクールの定義として共通となっているものはなく、National Association of Independent Schools(NAIS)でも実態が把握されていません。Clayton Christian Instituteのボードメンバーによると、まだ数十校のレベルではないかと言及されており、今後定義がはっきりしてくるものと思われます。

※※人数が少ないわけではなく、マイクロスクールという文脈ではありませんが、似たような学習形態を持っている学校にSummit Public Schoolがあります。この学校は、チャータースクールとしてサンフランシスコで展開しており、所得の高くない層にもアプローチをしながら、高いパフォーマンスを出しており、注目されています。

 

<参考記事>

The Rise of AltSchool and Other Micro-schools

http://educationnext.org/rise-micro-schools/

Open a Micro-School: Here’s How

http://www.huffingtonpost.com/tom-vander-ark/open-a-micro-school-heres_b_7936722.html

‘Micro Schools’ Could Be New Competition for Private K-12

http://www.edweek.org/ew/articles/2016/01/27/micro-schools-could-be-new-competition-for.html

The one-room schoolhouse is the next big thing in education

http://www.techinsider.io/micro-schools-altschool-2016-1

The Schools of the Future

http://www.usnews.com/opinion/knowledge-bank/articles/2016-01-19/californias-summit-public-schools-are-the-schools-of-the-future

 

藤原 さと