ダイナミックに躍動するプロジェクト~レッジョ・エミリアの保育園に行ってきました

こんにちは。藤原さとです。

昨日、レッジョ・エミリア・アプローチを採用して開校8年目になるイートンハウスインターナショナルプリスクールを見学しました。思っていた以上の内容だったので、忘れてしまわないうちに自分のメモも含め、共有します。

訪問したイートンハウスは、シンガポールで1995年にスタートし、現在では全世界に約100校ありますが、今回お伺いしたのは赤坂にあるプリスクール(保育園/幼稚園)。レッジョを中心に据えて、本格的に実施している園としては、日本国内では随一とのことです。

 

<レッジョ・エミリア・アプローチとは?>

レッジョ・エミリア・アプローチは、モンテッソーリメソッドが生まれてから約50年後、1960年代にイタリアの地方都市レッジョ・エミリアで生まれました。1991年に【世界で最も優れた幼児教育】と絶賛されて以来、世界各地でその影響を受けた園が誕生しつつあるそうです。

以下教育立国HPからの引用です。
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レッジョ・エミリア・アプローチは教育アプローチであると同時に、市民が主体となった革命的な社会実践でもあり、それは「我々はどのような未来を育みたいのか」という実直な問いかけと共に、先端的な教育理論に基づいた実践の軌跡でもある。そして、その源泉を知るにあたり重要なのが、思想的牽引者であったローリス・マラグッツィである。
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といっても、、分かりにくいと思いますので、実際の見学の様子を報告します!

 

<子どもの興味によってカリキュラムができる!>

レッジョでは、子供たちが「何をやるか」を決めます。そして、そのプロジェクトには期限はありません。数週間のものから、半年、長いものは一年をかけてプロジェクトを行うそうです。「いつやめると決めるのですか?」と聞いたら、「子どもたちがやめると決めたときです。」と返事がありました。

一つのクラスでは複数(2-3)のプロジェクトが同時に開催されており、たとえば、5歳のクラスでは、ドレスをつくるプロジェクト、人形劇をつくるプロジェクト、木を自分たちでつくるプロジェクトが同時に進んでいました。たとえば、絵本の中から、ドレスを作りたくなった子どもたち。先生はその子どもたちの興味をくみ取って、ブライダルドレスをつくるお店にみんなで行ったり、おうちにあるドレスを持ってきてもらって、どのようにできているかを調べたり、結婚式の時のお母さんのドレスの写真を持ってきてもらったりします。そうした中で、子どもたちは「お姫様のドレスのようにスカートを膨らませるにはどうしたらいいのだろう?」「帽子はどのように作ったらいいのだろう?」と構造について学んでいくのです。

 

 

たとえば、自転車のプロジェクトは、子どもたちが自転車に興味をもってタイヤを回していたりしたことからスタートしました。そこで先生は、古い自転車を購入し、みんなで解体していきます。その中でパーツの役割や名前も学んでいきます。ここではMotor Skillsといって、ねじを回したり、釘を打ったりする手の運動も学んでいきます。今、電気についても学べるのではないかと、昔あったようなペダルを回すことでランプがつくパーツを先生たちが探しているそうです。

 

今までのプロジェクトとしては、「建築プロジェクト」といって、天井まで届くような建物を実際に木で作る約1年のプロジェクト、ピタゴラスイッチをつくりたい!からスタートし、最後は流しそうめんをつくり、実際に保護者にふるまった7か月のプロジェクト、(先生はあまり乗り気でなかったそうですが笑)ポケットモンスターのモンスターを分類し、モンスターのアイディアのもととなった鳥や昆虫などについて学んでいくプロジェクトがあったそうです。

 

<子どもたちの興味が何か月も続く秘密>

しかし、なんといってもいろいろなことに興味があちらこちらにいく未就学児。どうしてこれだけ長い時間、小さな子どもたちが、1つのプロジェクトに没頭できるのか。創立者のアンリ・タンさんにお伺いしたところ、以下のような説明でした。

〇子どもの興味に従ってカリキュラムを設計すること

〇だからといって、子どものやりたい放題にさせるのではなく、学びのコンセプトをしっかりたて、それに従って、子どもたちがさらに興味の幅を広げ、深く探究できるように導くこと

〇興味がない時には他のプロジェクトに行ってしまう子もいるが、そういう時にはその子のプロジェクトでの役割や意味をはっきり伝え、子どもに判断させること。

〇とにかく子どもの興味をひく題材や仕掛けをデザインしたり、環境を整えることに先生は注力し、子どもへの直接的なかかわりは最低限にして、子どもたちが自己主導で探究できるように導くこと。

(子どもたちは針をつかって帽子をつくろうとしていましたが、先生はそこにはいません。5歳児クラスになると、電動ドリル、のこぎり、グルーガンなどを使いますが、使い方をしっかり教えれば子どもたちはできるんです、と説明されたのが印象的でした)

 

<ドキュメンテーション~記録の効用>

レッジョの要といえば、ドキュメンテーションを想像する人も多いかと思います。ドキュメンテーションは、子どもの様子、会話、活動の様子などを写真やビデオなど様々な形を使って記録し、パネルにして教室内に貼っていくものです。

 

「レッジョ・アプローチによるドキュメンテーションの実例検討」を記した伊東氏は、ドキュメンテーションは、まず「子どもたちにとって」以下の3つの重要性があると指摘しています。

1)自分がつくり出した作品は言うに及ばず、そのプロセスで自分が出した考えや発言に保育者たちが関心を寄せ尊重してくれていることの証である。

2)子どもたちが自分自身の学びの過程を見直す機会を提供したり、過去に自分自身がやりかけていたこと、それをやろうと思っていたときの問題意識に立ち返って、そこから再出発するための大切な資料を提供する。

3)ドキュメンテーションを利用することで、子どもたちの議論や長時間の話し合いが容易になる。

更に、ドキュメンテーションは、保育者にとっては、今後の指導のポイントを探り出すための重要な手掛かりとなり、親や地域住民にとっては、親や地域住民の保育参加を促す重要な通路となるとしています。

私たちのような見学者も含め、コミュニティの人がアトリエに入ったときに何が起きているのか一目でわかるドキュメンテーションは、「開かれた保育」のためにも非常に有効だと感じました。

木下龍太郎氏は「ドキュメンテーションは、プロジュエクトの基本的な構成要素である探求、表現、対話をかつてない水準に押し上げる働きをすると同時に、子どもたち、親たち、保育者たちの三者を相互に有機的に結びつけるシステムに組み込まれて、生きた相互交流のかなめとなっている」と指摘しています。

 

<コンセプトの大切さ>

さて、これだけの探究をじっくり進めるためにはやはりコンセプトをしっかりたてることが大変重要なのだと再認識しました。

たとえば、もうちょっと小さい子たちのプロジェクト。これも靴を並べる絵本からの発想で、まず靴を並べることから始まり、今はボタンやクリップ、小瓶を並べることを延々とやっています。

もちろん並べているのは子どもたちで、そこに対する保育者の介入は最低限なのですが、そこに「Measurement」「Pattern」という行列や計測などの概念を捉え、それに応じての適切な環境設定、興味を引き出す、というカリキュラムをデザインしていく部分は、まさに先生たちの出番です。「靴の次は違うもの」「階段で並べてみよう」「自分の背の高さを調べてみよう」と深めていくのです。

 

インタビューでも教えてもらいましたが、こうしたコンセプト設定に慣れていない先生は子どもの興味に振り回されたり、いろいろなアクティビティをする割には、深まらないということがあるそうです。なので、複数の先生が丁寧な観察をし、まさにドキュメンテーションを活用し、次にどう子どもたちの学びをデザインしていくのか、つねに話し合いながらプロジェクトをつくっていくのでした。

 

<最後に>

百聞は一見に如かず!とはまさに! ドキュメンテーションや、子どもが主導するプロジェクトというような言葉だけは知っていましたが、今回実際に教室(アトリエ)を見学することで、そうしたバラバラだった知識が統合されていく感覚がありました。

低年齢のクラスでは、個別の活動をしていた子どもたちが、4歳、5歳になるとグループで、穏やかにコラボレートしている姿をみて、未就学児の子どもたちがここまで成長できるのだ、と感嘆!でした。創立者のアンリ・タンさんが、プロジェクトといってもまだまだ構成的な探究が今は主流だが、これからの時代こうして時間的な制約がなく、子どもたちが主導していく学びを支えるような形にこれからは変わっていくのではないか、とおっしゃっていたのがとても印象的でした。

ありがとうございました!

 

【参考文献】

レッジョ・アプローチによるドキュメンテーションの実例検討 伊東久実
木下龍太郎(2000)「レッジョ・エミリアそのl 子どもの声と権利に根ざす保育」「現
代と保育」50号、ひとなる書房

 

 

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