人は「優しい気持ち」だけでは思いやりのある行動がとれない? 認知科学から見た生きた知識を生む探究的学びとは何か

 

藤原さとです。

先日、ABLE2017に出席しました。ABLEは認知科学を中心にさまざまな領域の研究者と教育に志ある人々が国境を越えて繫がり、新たな知を創造していくコミュニティですが、今年は5年の節目。今までの振り返りと総括がなされました。私の理解のためにもメモ(特に1日目)を作成しましたので、せっかくなので皆さんにも共有できたらと思います。「学びとは?」「知識とは?」「考える力とは?」「探究とは何か?」に分けてです。

 

■「学び」とは?

 

日々皆が使っている「学び」という言葉ですが、そもそも「学び」って何なのでしょうか? 慶応義塾大学の今井むつみ先生は、「学び」の目的は、「生きた」知識を生むこと、とまず定義されました。「生きた」知識というものは、“問題解決に使え”、“構成・再編されより良いものになり”、“必要な時にいつでも取り出せる”ものです。

 

「生きた知識」を創造するために必要な「考える力」を養うものが「学び」

 

では、「知識」は「事実」なのでしょうか? 認知科学の分野では、私たちの見ている世界は「無意識の脳の推論の結果」であると捉えるとのこと。全ての人が同じ景色を同じ景色として認識していないだろう、という実感は多くの人が持っていると思います。「見たもの」ひとつをとっても、無意識の推論の結果、同じ色を違う風に認識していることや、頭で勝手に「要らない情報」として消し去っているものは沢山あるのです。「無意識の脳の推論の結果」はまさにエピステモロジー(知識観・学習観)であり、そこが出発です。

 

「知識」は「事実」とイコールではない

 

 

■「知識」とは?

 

となると、人の認識というのは、知識のフィルターが通されたものであり、その認識を通して、記憶がなされるというループの繰り返しとなります。下の図をくるくる回っている感じですね。

 

 

人はこのループを繰り返しながら、心の中で“主観的に”、自分だけの(なりの)「認識」「記憶」「知識」を構築していくことになります。よく「認識のゆがみ」などと言いますが、多かれ少なかれ、そもそもみんな違う認識をベースに知識を組み立てています。その結果、ABLE2016夏でも扱われたように、「(間違った)思い込み」をしていることもあるのです。

典型的なものとして天動説が例に挙げられていました。「地球が中心で太陽が回っている」と思うほうがより直感的なため、誤った認識をしていることも多々あるわけです。この誤った認識を正していくことこそが、科学そのものであり、だからこそ「認識」をどう取り扱うかを意識し、自分の「認識」の誤りに自ら気が付くプロセスに価値があるのです。

 

 

■知識を操る巨人とは? 「考える力」とは?

 

では、「考える力」がある人ってどんな人なんでしょう? まず例として羽生将棋士の例が挙げられました。彼の「考える力」というものは、膨大な知識コンテンツと、そしてそれを短時間で的確・正確に引っ張り出せることにあります。問題解決のために必要な知識を引っ張ってくるプロセスが熟達してくるとそれは「直感」というレベルに達しますが、こうした「問題解決力」「推論力」「情報処理能力」という「力」の組み合わせこそが「考える力」であるとのこと。「直感」というレベルに達するには、「知識」を使い「推論」をして「新しい知識」を創っていく練習を重ねることにほかならないのです。

 

羽生さんの例では、論理の世界での「考える力」の話でしたが、社会的行動においても、同じように「考える力」が必要と言われて非常に納得しました。人は実は「優しい気持ち」だけでは「思いやりのある行動がとれません。認知科学の世界では、「相手の状況を的確に捉え」「どのような気持ちでいるのかを読み取り」今までの知識をベースに「推論」していくことの積み重ねで「優しい行動」がとれると考えます。こうした「推論力」は、Nancy Nersessian博士によると下記の3つに分類されるとのこと。

 

  • 帰納的推論
  • アナロジー(類推)
  • アブダクション (発想推論)

 

たとえば、ニュートンの万有引力の発見は、アブダクションとアナロジーが繫がったことで生まれていると言えます。ただ、「思いついちゃった!」が正しいとは限りません。そこで、「直感」だけではなく、「批判的思考」によってそれを見直していくというプロセスが必要になってくるわけです。自分の理解のために、図にしてみました。(厳密ではないと思います。みなさんもご自身で自分の理解のための図を描いてみてください)

 

 

 

 

■良い学び手(探究人!)が持っている資質

 

さて、いよいよ「探究」がここで登場です。今井むつみ先生が教えてくださった、「考える力」を身につけるのに最高の学び、それこそが「探究する学び」だとしたら、それはどういう風に実現すればいいのでしょうか? 探研移動小学校ジェネレーターの市川力先生はこう言います。

 

  • アナロジー、アブダクションといった推論をPlayfulに繋げ続けること!
  • 無目的・非効率OK!横道・脇道・道草も!
  • 状況に応じて思わぬ展開OK!
  • 終わりが始まり!落としどころ不要!
  • 「探究心」を培う「原体験」づくり。とりあえずやってみて生まれる好奇心を大切に

 

子どもの学びの現場では、みんなで本気で語って動いて試しての「仮説」「追究」を図や絵や言葉にして「表現」するの繰り返し。どんなささいなことでも、バカバカしいことでも、たいそうなものでなくても日常にあふれた偶発的な出会いから展開を面白がり、思いつきを大胆に語り、いろいろ試してみることから生まれる。。。

 

実は、この学び、市川先生が今年の4月までいらした東京コミュニティスクールで実践されていました。(今ももちろん実践されています!)「こたえのない学校」はこの学校での実践からインスピレーションを受けてスタートしました。基本はブレず、でも現場はハプニングに富み、発散的・爆発的なエネルギーに満ちたこの学びを広げていくことが私の夢でもあります。

 

■6つのC

 

さて、ABLE2016冬に登壇されたキャシー・ハーシュ=パセック教授の“Becoming Brilliant: What Science Tells Us About Raising Successful Children” の訳本「科学が教える子育て成功への道」がいよいよこの日に出版されました。(翻訳は、ABLE主催の今井先生、市川先生です)

 

発達心理学・認知科学が専門のキャシー・ハーシュ=パセック教授は、子どもの脳と心が「遊び」の中で驚異的な成長を遂げることを最新の科学データで証明してきましたが、この学びを6Cというスキルとしてまとめました。

 

Collaboration

Communication

Content

Critical Thinking

Creative Innovation

Confidence

 

私もこの本を読みましたが、個人的に非常にパワフルだと思ったのは、この6つのCからCollaborationからスタートし、木が上に伸びるようにCreative InnovationとConfidenceにつながっていく部分です。ぜひ読んでみていただければと思います。

 

「人は進化の結果、生まれながらに他者を意識するようにプログラムされている。私たちは本質的に社会的存在なのである。これからのビジネスモデルはチームで働くことが中心になり、そのことをチームで学ぶ必要に迫られている。自分をコントロールしてコラボレーションすることは私達すべてに求められているスキルの中核であり、子ども、大人を問わず、社会的に有能であるための基本である。(科学が教える子育て成功への道P36)」

 

ABLEは今後さらに進化し、これからのABLEは、最先端の学習科学の知見を共有し考える場としてだけでなく、社会の中に学びの場を創出する活動も行っていくとのこと。楽しみですね!

 

******

 

こうした認知科学をベースとした学びの構成は、世界的に広まっていると思います。国際バカロレア、そしてアメリカのコモンコアでも採用されている概念型探究学習の基礎となるLynn Ericsson 博士のConcept Based Learning の「知識の構造」と今回教えていただいた「考える力」の構造がしっかり重なって見えたのが、今回の私の学びでした。

 

この領域は本当に面白い。私自身も探究しつづけたいと思います。

 

 

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