強者の前で女性が声を挙げるということーアンジェラ・デイヴィスから学ぶ

2024年の選挙戦時から”America First”を掲げてさまざまな発言をしてきたトランプ大統領。2025年1月20日の就任の日には、パリ協定からの再離脱を表明、WHOからも離脱、パナマ運河を再びアメリカの管理下に置く意向を表明しました。また、連邦政府における多様性、公平性、包摂性(DEI)に関する政策を終了する大統領令に署名。連邦政府が認識する性別を「男性」と「女性」の2つのみとし、性別の変更を認めないとする大統領令、さらに、2月1日には、トランプ大統領はカナダとメキシコからの輸入品に対して25%の関税を課す大統領令にも署名。2月3日(日本時間2月4日朝)に、イーロン・マスクが、海外援助を管轄する国務省傘下のUSAID(アメリカ国際開発庁)について、トランプ大統領が閉鎖に同意したと伝えたというニュースが飛び込んできました。今日は、教育省の廃止を目指すというニュースが・・。


少し距離を置いて見ていると、暗澹たる気持ちとともに「馬鹿げている・・」とつい呟きたくもなってしまう状況の中、ぼんやりとSNSを眺めていたら、コーネル大学で毎年行われているマーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念講演で、なんとあの
アンジェラ・デイヴィスがスピーカーになっていることに気がつきました。テーマは “The Struggle for Liberation Today”。しかもオンラインで聞ける!コーネル大学は私が修士課程で2年間を過ごした学校です。政治的・社会的にぐらぐらと揺らぐアメリカの大学で今、どのようなスピーチがされるのか。結果、本当に聞いてよかった。震えるように勇気をもらえる言葉がたくさんありました。メモを残しておきたいと思います。

 

【自由とは、常に誰か他の人を解放することを必要とする】

コーネル大学はジェンダーや社会正義の研究が活発な大学の一つです。キャンパスのすぐそばには、セネカフォールズというアメリカのみならず、世界のフェミニズム発祥の地(第一波)があって、1848年に女性参政権を求める宣言が出されています。また、同校からはアメリカ合衆国の最高裁判所判事を務め、ジェンダー平等や人権擁護において大きな影響を与えた、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)、アフリカ系アメリカ人の歴史や文化、人種や自己認識、アイデンティティの問題について多くの著作を残し、1993年にノーベル文学賞を受賞した、トニ・モリスンが輩出されています。

アンジェラ・デイヴィスのスピーチはまず、以下の言葉からスタートしました。

 

現在の政治環境を考えると、この国や世界中で社会正義のために立ち上がる必要性が再び高まっていることについて、私たち全員で深く考えることが重要だと思います。

 

そして、トニ・モリスンに触れ、自由について語りました。実は、今回のスピーチで何度も繰り返された言葉は「自由(freedom)」でした。

 

私はトニ・モリスンから多くのことを学びました。彼女が自由の本質について講演していた際に言った言葉が特に印象に残っています。彼女は、自由は決して一人の人間や一つの存在が達成するものではなく、それ自体で存在することはできない、と述べました。自由とは、常に誰か他の人を解放することを必要とするのです。


以下の言葉が出てきたときには、会場で起こった歓声が、日本の私の部屋まで響いてきました。


歴史の方向を決めるのは、大統領や選挙で選ばれた公職者ではありません。集団として団結した大衆こそが、それを決定するのです。

 

考えてみてください。これまでに、どの大統領がこの国の歴史の流れを変えるような主要な運動を生み出したでしょうか?

 

だからこそ、私たちは自分たちが生み出せる力を認識することが重要なのです。誰が選ばれようと、私たちはその人物とどのように闘うかを選ぶことができます。そして、その闘いの枠組みを決めるのは私たちです。たとえトランプが11月の選挙で勝利したとしても、投票しなかった人々、あるいはその多くが、私たちとともに立ち上がることができます。私たちはこう言うのです。

 

「彼が実行しようとしているファシズム的な政策に加担するつもりはない。」

 

私たちは加担しません。友人や隣人、学生や同僚たちを標的とした大量逮捕や強制送還に、決して加担しないのです。

 

【パレスチナへの連帯、そして大学について】

 

アンジェラ・デイヴィスはパレスチナへの連帯を表明していますが、この日もパレスチナの厳しい現状について語り、ガザに対する攻撃に関与する企業への投資を見直すことを求めるキャンパスでの住民投票に対する、大学側の関心の低さを指摘しました。

 

コーネル大学で歴史学を教えるラッセル・リックフォード准教授が、先学期、ヘイトクライムの対象となったことに触れ、学生たちもリックフォードのように使命や運動のために声を出す教員を支えることが大切だ、と伝えました。

 

ラッセル・リックフォード教授は、学生だけでなく、使命や運動のためにも立ち上がることを恐れない、強い黒人急進主義者の教員の一人です。その姿勢は、この部屋にいるすべての人を鼓舞してきたと私は確信しています。しかし残念ながら、彼は先学期、極めて卑劣なヘイトクライムの被害者となりました。彼の顔を加工して黒く塗りつぶし、それをナチスの鉤十字(スワスティカ)の隣に並べ、何時間もキャンパス内を車で走らせるという行為が行われたのです。これは、彼がパレスチナを擁護する発言をしたことに対する攻撃でした。

 

— しかし、これはリックフォード教授だけの問題ではありません。このキャンパスを、学生が自ら学び、自由に意見を表明できる包括的な場にしようと努力している教員たち全員に関わる問題です。そうした教員が声を上げ、立ち上がるとき、学生たちは彼らを支える必要があります。

 

また、コーネル大学4年生の学生活動家との対談もありました。(HavenというLGBTQ+のコミュニティの政治活動委員長をしているそうですが、きちんと聞き取れなかったのと、所属学生の名前を公開していないようなので、一旦名前は差し控えます)その学生が、「特定の問題について発言すべきかどうか迷うことがある」と伝えた上で、アンジェラ・デイヴィスが「私たちは必ず勝つと確信している」と言ったことに対し、その確信はどこから来るのか?と問うたときのデイヴィスの答えは以下のようなものでした。


それは、私は世界が変わるのを見てきたからです。


もちろん、私が理想とする資本主義の転覆を直接目の当たりにしたわけではありませんが、私たちが取り組んできた活動によって、非常に多くの変化が生まれたことを実感しています。

 

例えば、新しい学問分野が生まれました。かつてはブラック・スタディーズ(黒人研究)というものは存在しませんでした。実際、私が1969年にUCLAで最初の仕事を得たとき、「ブラック哲学」や「ブラック・スタディーズ」といった分野はまったく存在していなかったのです。私は、「哲学を人種差別との闘いとどのように結びつけられるか」という問いを模索していました。

 

そして今、現在の文学や議論を見てみると、黒人女性の哲学者が数多く活躍し、さまざまな対話が交わされています。私は、これまで想像もしなかったような世界が広がっていることを語るだけで、何時間でも話し続けられるでしょう。

 

【「女性」が声を上げるとき】

 

勇気のある女性はアンジェラ・デイヴィスだけではありません。トランプ大統領就任の翌日に、ワシントン国立大聖堂で伝統的に行われる宗教間祈祷式が開催され、この式典で、ワシントン大聖堂の主教であるマリアン・エドガー・バッディ(BIshop Mariann Edgar Budde)氏が説教を行いました。主教は、トランプが目の前に座る中、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの子供たちについて言及し、命の危険を感じているかもしれないこと、また市民権はないかもしれないが、オフィスビルを掃除し、農場や食肉加工場で働き、レストランで食事の後に皿を洗い、夜勤の病院で働く人たちは、税金を払う良き隣人だと訴えました。教会やモスク、シナゴーグ、寺院など宗教が違っているひとたち、自国の紛争や迫害から逃れてきた人々に対して、慈悲を求めました。

この動画は世界中に拡散されましたので、見ている方も多いかもしれません。トランプはこの説教に対し、謝罪を求めましたが、「他者に対して慈悲を求めることに対して謝罪するつもりはありません。」と主教は答えています。

 

自分が同じような立場におかれたときに、同様のことができるかと思うと、自信がなくなりますが、このように声を上げる人たちがいることに、心の底から安堵するし、こうした声に勇気づけられて、私もこうした文章を書くことができます。

 

世界中で再生された、2024年5月に行われた米国ハーバード大学の卒業式でのスピーチも共有しておきたいと思います。首席卒業者のShruthi Kumarさんは、隠し持っていた台本にないもう一つの原稿を袖から取り出し、パレスチナガザ地区の侵攻に対する、学生の抗議活動に対しての大学側の対応を強く抗議しました。この年、13人の学生が活動をしたことによって卒業できませんでした。言論の自由と、キャンパス内での市民不服従の権利が容認されなかったことに対し、深い失望の意を伝え、1500人の学生が嘆願書に署名し、多くの教員やスタッフが声を挙げたにも関わらず、こうしたことが起きたことは自由の問題であり、市民権と民主主義の原則に関わる問題だと訴えました。”Harvard, do you hear us?”と問いかけたあと、こうして不確実なときにこそ、すべての答えを知っているなどと思わず、対話によって、知らない人の中に人間性を、意見の合わない人の中に痛みを見ることが出来ないかと問いかけます。”An Ethic of Unknowing” という言葉でスピーチは締めくくられます。

 

 

さらに、アンジェラ・デイヴィスも講演中に触れていましたが、この日の前日にグラミー賞の授賞式があり、アリシア・キースが、”DEI is not a threat, it’s a gift”と言っていたことに触れました。レディー・ガガも「トランスジェンダーは、透明な存在ではない。愛されるに値する人々だ」と多様性を擁護しました。

 

こういうスピーチを聞く度に強く思うことは、アメリカという国は、どこかでこういうことが常に起きており、またこうした声に応える文化があるということ。スピーチをする人と同じく、もしくはそれ以上に応援する人の声が大切なのだとつくづく思わされます。

 

それ以外にも、さまざまな場面で声を挙げてきた女性たちはたくさんいます。国際的によく知られるところでは、2012年にパキスタンでタリバンによる女性教育弾圧に反対したことを理由に銃撃を受けたマララ・ユサフザイ、ベラルーシの作家でジャーナリストで、『戦争は女の顔をしていない』『チェルノブイリの祈り』などの著作があるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ、気候変動問題を訴えるスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリなど。もちろんジェンダー関わらずにたくさんの人たちが声を挙げているのですが、歴史的、社会的にずっと抑圧されてきた「女性」たちが挙げる声というものは、どこか透明で遠くまで届くもののような気がします。

 

少し離れた日本にいて悶々としていますし、私自身恐怖を感じていますが、こうした場所にいるからもしかしたらできることがあるのかもしれません。考えています。

 

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過去「女性」の声については、とても尊敬する二人について書いています。もしよろしければあわせて読んでみてください。

 

同じ空気を吸うためにーインクルーシブ教育を切り拓いたジュディス・ヒューマンの生き方から学ぶ

https://kotaenonai.org/blog/satolog/11680/

 

「わたし」ってなんだろう(4)〜ジュディス・バトラーから学ぶジェンダー

https://kotaenonai.org/blog/satolog/13909/

 

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