home > Blog > 藤原 さと > 多様性の中での個別化と探究学習を目指すNew School ~西海岸の学校におけるイノベーション(2)

 

西海岸の学校訪問レポート、前回のMillennium Schoolに続いて次は、サンフランシスコの公立小学校(チャータースクール)についてご紹介します。

この学校もMillennium Schoolと一緒で、設立して2年が終了したところです。他の学校の校舎の一部を使わせてもらって、小さく始めていますが、Great Schools.orgでのレビューは、ベストスコアの5。レビューでの保護者の評価は、これ以上はないほどの賛辞で、非常に人気が高く、抽選でもなかなか入れない学校になっています。この学校が何よりも大事にしているのは、(真正な)探究学習の実践です。

 

<チャータースクールとは?>

まず、New Schoolがとっているチャータースクールという形態ですが、これはチャーターという特別認可、あるいは達成目標契約を州政府と交わすことにより認可された学校です。アメリカの各州で1990年代くらいからだんだん増えてきましたが、認可の基準や評価方法、補助金の設定方法などについては、州によって違いがあります。日本でいうと公設民営と似た考え方で、運営資金は州政府から補填されるため、子どもたちは無償で学校に通うことが出来ます。

チャータースクールは、州や教育区によって違いはありますが、州や教育区によっては教員免許のない教師が教壇にたつことができたり、カリキュラムも比較的柔軟に組めるため、いわゆる普通の公立校よりも個性的な学校の運営が可能となるケースが多いです。有名なところではテキサス州ヒューストンでティーチフォーアメリカの卒業生がスタートしたKIPPAcademyや、FaceBook等が支援をしているSummit Public School、今回の訪問先の一つでもあるHigh Tech Highなどがあります。New SchoolもFaceBook創立者マークザッカーバーグの妻であるChan Zuckerbergの財団から支援を受けています。 余談ですが、私が昨年まで住んでいたテキサス州は比較的チャータースクールの設立が簡単で、質の担保の問題が発生していましたが、カリフォルニア州でのチャータースクールの設立は非常に難しいと言われています。

日本には私学助成金制度があるため、私学でも学費は年間50万円程度(文部科学省「子供の学習費調査」)ですが、アメリカにはそのような公的補助の制度がないため、テキサス州のような物価の安い州でも年間の学費が200万円前後の学校が多く、サンフランシスコのような場所だと、年間300万円~400万円以上の学校も珍しくありません。こうした費用を払える層はごく一部に限られており、以前は私立に通うお金がなく、公教育が合わない場合は、ホームスクーリングなど選択肢は極めて限られていました。政府が民間に学校運営を任せ、教育の場に競争原理を導入するという他国における新自由主義的な発想の是非はここでは問いませんが、地域によっては学力の向上はおろか、安全性も担保できない公立校もある中で、チャータースクール制度の導入によって、保護者にとってはある意味選択肢が増えたともいえます。

 

<New Schoolの探究学習>

New Schoolのビジョンは、「全てのサンフランシスコの生徒が、(人種や家庭の経済状況、生まれつきの特性などの)背景にかかわらずにその素晴らしい潜在力を存分に発揮させることができるだけの教育を受けることが出来る」というものです。そしてその強力なドライバーとして、「探究学習」を中心に据えています。子どもたちが、「大きな問いを自ら立て、学びを主導し、リスクを恐れない」ためのカリキュラムを作り、実践していました。

 

Vision

All San Francisco students receive an education that is equal to their extraordinary potential regardless of their background.

 

探究学習は、年間の計画として、年に3つの探究の輪(Inquiry Arc)があり、一つの探究テーマあたり6週間以上の時間が割りあてられます。(今年度は、はじめの探究の輪は、6-8週間、次は10週間前後、最後は、10-12週間とだんだんに長くしたそうです)この中で、生徒たちは、ビッグクエスチョン、たとえば「天候というものはどのようにコミュニティへの影響を与えるのだろう?」「コミュニティというのはなんだろうか?」「エンジニアはどのように問題解決をするのだろうか」というような問いからはじまるExploration(探索)、Expression(表現)、Exposition(発表)の構成となっています。

 

(写真出典)http://www.newschoolsf.org/

 

(クラスの教室の掲示)大きな問いは「植物や動物は多様なコミュニティーでどのように生きのびていくのか」。その下にある問いは、「フルーツや野菜はどのようなものだろうか?感覚を使って考えてみよう」「植物や動物を分類するときに自分たちが知っている知識をどのように使えるだろうか?」「どのように動物は環境に適応していくのか?」などが示されています。

 

<探究学習における学びの個別化>

この学校で興味深かったのは、探究学習における学びの個別化でした。学びの個別化(Personalization)というと、オンラインシステムを使って、子どもの進度に合わせたような問題が次々に出てくるようなアダプティブラーニングのようなものを想像する人が多いかもしれませんが、New Schoolでいう個別化というのはそれとは全く違う、必ずしもオンラインを介さないものでした。

具体的には、学年度のはじめの探究の輪で6週間をかけてじっくり観察し、それぞれの子どもの特性、個性や興味の方向を見極めます。そのうえで、先生たちがその子の年間のゴールを仮設定し、保護者と面談し、すり合わせたうえで、年間の個別学習計画「Individualized Learning Plan」を作成します。このプランについては、2つ目の探究の輪が終わった時点で、再度保護者と面談、子どもたちの成長の経過を共有し、学年末に向けてどのような戦略で成長を見守っていくのかを調整します。そして学年末の最後に最終的なアセスメントがなされます。クラスは一クラスに対して8-10年程度の教師経験のあるリードティーチャーと、経験1-3年のレジデントティーチャーの2名の教師がつき、丁寧な観察をベースに一年をどのように過ごしていくのか個別のプランを考え、一人一人の最大限にその持てる能力を発揮させることを支援していきます。

 

(クラスの掲示の写真)子どもたちの出した質問。「なぜねこには爪があるのだろう?」「なぜ動物には大きな歯があるのだろう?」「どうして植物は生きていくのに酸素や太陽が必要なの?」「どうしてコウモリには羽があるの?」「動物の中に入っているものはなに?」などなど。

 

<Social Emotional Learningの導入>

全体のカリキュラムとしては上述の探究学習の時間の他に、リーディングやライティングにあたるLiteracyの時間(1日1-2時間程度)Numeracyという数学的な考え方を学ぶ時間(1日1時間前後)がありましたが、そのほか特徴的だと思ったのは、Social Emotional Learning(SEL)の導入でした。見学当日、3年生の女の子がGirls Leadershipというテーマで、数週間学び、その成果を劇の形で発表し、先生として他のクラスメイトに伝えるクラスもありましたが、実は今回見学した4校すべてにSELは取り入れられていました※。

SELとは、子どもたちの社会性、情動性を育むもので、The Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning (CASEL)によると、「子ども大人に関わらず、効果的に自身の知識や態度、スキルを獲得し応用し、自分自身を理解し感情をコントロールし、ポジティブなゴールを設定し達成したり、他者に対する共感(Empathy)を感じて、他者と良好な関係を築き、責任のある判断を行うプロセスである」と定義されています。

New Schoolでは現在年長(Kinder)から3年生までの生徒の在籍のため、まだまだ自分の気持ちを言語化できない年齢にあたり、いろいろな感情を表現するぬいぐるみが置いてあり、苛立った時や、悲しい気持ちになった時、逆にうれしい気持ちになった時などに、そのぬいぐるみを使って感情表現するということが実施されていました。

 

 

<New Schoolの設立者 Emily Bobel>

さて、当日、この学校の設立者であり、校長のEmily Bobelに直接話を聞くことが出来ました。

彼女はスタンフォード大学を卒業後、Teach For America(TFA)に入り、NYの7-8年生(中学生)を対象に数学と科学を教えました。しかしそこでの指導法は、指導書に従って授業を行うもので納得できなかったそうです。その後、TFAのコアメンバーとして、裏方のファンドレイジングや、ティームティーチングの仕組みづくり、TFAのプログラム修了者のネットワークづくりをしていましたが、サンフランシスコのExploratoriumで科学技術を探究的に学ぶためのワークショップを受け、衝撃を受けます。その後本質的な探究学習を実践できている学校を探すため、アメリカ中の学校1000校(!)を見て回ったそうですが、結局これぞという学校に巡り合えず、また、その中で、現状のアメリカの公立校では、白人、ヒスパニック、黒人、アジア人が分断され、お金持ちはお金持ちだけ集まる学校、貧しい人は貧しい人が集まる学校で学ぶなど決定的に多様性に欠けていることに気が付きます。この経験から、多様性にあふれ、本質的な探究学習ができる学校を創りたいと、New Schoolを創立しました。

線が細く、まだまだ若い彼女は、いったいどこにそれだけのパワーがあるのかと感心するほど、情熱的でアメリカの教育を変えたいという気持ちに満ち溢れていました。そんな彼女に引き寄せられるように全米から集まった先生たちが、New Schoolを支えています。

公立校よりさらに予算配分が少ないと言われているチャータースクール。寄付や、保護者、コミュニティーの支援も受けつつですが、決してファシリティーとしては恵まれた環境にはなく、古びた校舎でのスタート。多様性と探究心こそが、子どもたちを育ているという信念を持ったEmilyに刺激を受けた学校訪問となりました。

次は、本格的なPBLを見たければ、この学校を訪問するべき!と何人もから言われた私立の伝統校Nueva Schoolをご紹介します。

 

藤原さと

 

※アメリカの公立小学校における個別化の現状については、過去教師へのインタビューをしたときのものがありますので、ご参考ください。

授業成功のポイントは徹底した個別化~アメリカ公立小学校先生のインタビュー

→ブログはこちらから

※Social Emotional Learningの学校導入の草分けは、次回にご紹介するNueva Schoolです。

 

<参考>

The Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning (CASEL)

https://casel.org/

 

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