home > Blog > 藤原 さと > 発達科学をベースとしたティールな学校~Millennium School~西海岸の学校におけるイノベーション(1)

 

5月下旬から6月上旬にかけて、アメリカ西海岸の先進校いくつかを訪問してきました。私の目的は、本格的にPBL(Project/Problem Based Learning)を実施している学校がどのようなフレームワークを使い、現場がどのようになっているのかを見ること、またPBLが日本の教育の実装にどのような有効性があるかを見るためでした。主に訪問したのは下記の4校。私学・公立両方(Charter)、小学校から高校までと対象年齢も形態もバラバラの学校です。第一回は、設立してから2年と短いにも関わらず一番強い印象を受けたMillennium Schoolをご紹介したいと思います。

  • Millennium School (私立)
  • New School (公立/チャーター)
  • Nueva School (私立)
  • High Tech High (公立/チャーター)

 

<発達科学をベースとしたフレームワークが実現するハッピーな学校>

Millennium Schoolは、青年期の子どもたちを対象としたインターンシッププログラムSPARKを立ち上げ成功に導いたChris Balmと、企業のリーダーシップを育成するコンサルティング企業(現コーンフェリー)を長年率い、全米トップレベルのリーダーシップアドバイザーでもあるJeff Snipesが一緒に設立した私立のミドルスクール(対象:小学校6年生から中学2年生)です。

この学校の設立には、研究に3年の歳月をかけ、多くの学校を見学したうえで、神経科学と発達心理学を融合させた発達科学のエビデンスから、健康な人間的発達を遂げることと、アカデミックを両立させるフレームワークを創り上げました。Lab School(実験的な学校)の位置づけで、スタンフォード大学などの研究機関と、青年期の発達に関する共同研究をしながら学校を運営しています。

 

同校のHPにはこんな言葉があります。

「成功とは何か」-それは、人生において積極的な選択を行うことであり、さまざまな状況における要求に応えられるだけの能力を持ち、自分自身の多様な側面を自身のアイデンティに統合していくことである― “Foundations for Young Adult Success” – June 2015

 

Millennium Schoolは人生の成功は、良識、愛、そして自分の行動を意識することによって実現されるとし、一人一人の子どもは、もって生まれた才能を生かして社会に貢献する力があるとしています。そのうえで、自分自身、そして周囲や世界との関係性について安全に且つ本質的に探索できる環境こそがその力の最大発揮を可能にし、子どもたちは自分自身の学びの旅を創り上げていくという信念に基づいて学校のカリキュラムが組まれています。特に自己のアイデンティティが形成されるミドルスクールエイジを非常に大事な時期と考えており、この年齢にフォーカスしたプログラムを非常に丁寧に創り上げていました。

 

 

<ハッピーで穏やかな思春期の子どもたち>

実は、今回複数の学校を訪問した中で、Millennium Schoolが一番「穏やかな幸せ」を感じた学校でした。心地よい空気が学校内にあふれており、子どもたちは実に楽しそうに今やっているクエストという探究学習単元の説明をしてくれ、それぞれにどんなにここが素晴らしい場なのかということを熱をもって話すのです。彼らは、変に大人びたり、斜に構えたりしていないのですが、年齢からすると考え方も自己認識も非常に成熟しています。これが小学校6年生と中学1年生という、精神的にも難しいことを抱えがちな年代の子どもの姿なのだろうか。驚きを隠せませんでした。

見学した朝、8:30に生徒たちは登校するとそのまま講堂に集まって、輪になり、先生が鳴らす音楽と2分間の短い瞑想から始まります。そのあと、連絡事項や話したいことを話す時間があるのですが、終始穏やかな時間で、だれも声を張り上げることなく、非常に落ち着いた状態であることがみてとれました。

その後、クエストという探究の時間でクラスを見せてもらいました。対象は6年生と日本でいう中学1年生です。3クラスを見ましたが、一つのクラスはジャーナリズムをテーマとし、どのように批判的になれるのか、何がバイアスなのかということなどを学びながら、自分たちで記事を書き、ホームページで発表するという最終プロセスに入っていました。もう一つのクラスは、「進化」がテーマ。最終のアウトプットは隣にある小学校の2年生に「進化」について教えてあげること。小学生に教えることで、相手の気持ちになること、相手の状態に合わせることも学んでいました。絵本を作ってわかりやすくする子、「「種」や「進化」のような難しい言葉を使うと彼らはわからないから、そこの表現をどうしたらいいのか頭を悩ませているわ!」という子、それぞれいきいきと取り組んでいました。最後に「Happiness」がテーマのクラス。ここも3名前後のチームで取り組んでいましたが、「時間と幸福」をテーマにどのような時にハッピーなのか?また、歴史的にハッピーだった時代とそうでない時代があるのかを見ていっているチーム、また幸福とは何かということを掘り下げ、色々な哲学者がどのように「幸福」を捉え、定義しているのかについて調べているチームもありました。

(当日見学したクラスの様子)

 

当日は子どもたちのインタビューも許されたのですが、先生たちや友達への信頼が深いことが印象的でした。やはり年齢的に自己が芽生え、身体にも変化が大きい時期。この学校は多様性を確保するために色々な経済状況にある子や、認知特性のある子、人種や文化が違う子たち等に対し、学費を調整するなどの取り組みをしています。年齢的にもお弁当を取った取らないの小さなことから始まり、トラブルがないわけではありません。でも、そういったときには、なぜそういう行動をとったのか、その時の気持ちはどうだったのか、などとあるものをまず吐き出したうえで、どうしたらよいか考えていくプロセスを省かず、ゆっくりと時間をかけて解決していくのだ、と説明してくれました。必要な時には、授業中であれ、放課後であれ、助けを求めれば先生もサポートしてくれるので安心していられるのだそうです。

 

<ハッピーを実現するティールスクール>

思春期を迎えた子どもと言えば、色々な葛藤をかかえ、荒れたり、口が悪くなったり、イライラしていてるのが当然だと私も含め、思う人は多いでしょう。でもそんな様子がない学校の秘密について当日学校を案内してくれたChrisに聞きました。実は、Millennium Schoolは、ティール組織を書いたフレデリック・ラルー、そしてインテグラル理論を提唱するケン・ウィルバー、「Changes of Mind」を書いたジェニー・ウエードが考える発達理論をベースとした学びを開発する実験学校(Lab School)だと言います。

彼らは子供たちが以下のような発達の過程をたどると考えており、そのプロセスを援助することに大きな力を割いていました。

 

第一段階:Sense of Belonging/Safety

自分自身が、安全な場所に帰属している安心感から、子どもは、社会性を持ち、豊かな感情を持ち、認知機能を高めていきます。そういう中で倫理観や、美的感覚を育んでいきます。

第二段階:Achievement

次の段階では、もっと個に焦点があたります。自分はどこからきて、どこへ行くのかを知り、Empirical Thinkingの能力が育ちます。自分の持てる力を他の人に役立てることが心地よいことであることを知ります。

第三段階:Authenticity(Leadership)

この段階に来ると、自分は自分のことをよく知っていると感じ、自己肯定感や自信のようなものが出てきます。本質的な自信は、仮に周りの人から賞賛されなくとも自分自身が信じる道を進むことを可能にし、新しいことにチャレンジをする力を与えます。

 

フレデリック・ラルーの「ティール組織」を読んだ方はここでピンとくると思いますが、まさに彼らは、こうした発達段階を青春期の子どもたちの成長過程に応用し、彼らは「Adolescent Development Framework」を開発し、アップデートを続けています。

Millennium Schoolの子どもたちは、こうした発達段階に於いて、無理に次の段階に押し上げられるのではなく、それぞれの段階をきちんと全うした上で次の段階に進むように援助されます。Adolescent Development Frameworkでは、たとえば、第一段階の「Belonging」のフェーズにいる子供がいたら、その子は物事の正当性を判断するのに固定的な考え方を持っているため、プロジェクトを通じて、複数の意見の違う大人、また成功に対する様々なアプローチをとる大人たちに触れさせていきます。そうすることで、子どもは自己主体(Self Agency)の感覚を育み、複数の解決手段を持つ、柔軟な大人に成長していきます。また、月に1日自己認知(Self Awareness)をグループで学ぶForumなどもあります。

 

【写真出典】https://www.millenniumschool.org/

 

<ティールな学校はどうしたら実現できるのか?>

「ティール組織」の本を読んだくらいで、ティールな組織は作れるはずもないですし、数々のフレームワークや瞑想などもとってつけたようになってしまうことも少なくないと思います。しかし、この学校における子どもたちの自己主体性(Self-Agency)、自己認知(Self-Awareness)の様子や、穏やかに健康に伸びていこうとする学校と先生、生徒の関係性は、特別なものがありました。

これは、企業の人材育成の全米レベルのトップコンサルタントとして人間というものを知り尽くしたJeff Snipesと、10年以上にわたって、青年期の子どもたちを見てきた探究心あふれるChris Balmの二人のティールなリーダーが丁寧に学校を創ってきたからではないかと感じます。

自分は何に情熱を傾けられるのだろうということをいろいろな体験を通じて感じ取り、仲間の賞賛を期待するだけではなく、十分に自分自身を信頼し、授かった能力を認知し、それを他者に向けて表現できるような「Authenticity」の第三ステージに上っていくには、そのモデルとなるような大人たちが適切に関わることが重要です。そして、教師は子どもたちが、現在のステージをどれだけ全うしたかを見取り、次のステージへのトリガーを適切にひく観察者であり行動者でなければなりません。

相当なスキルを要するものではないかと感じますが、彼らはそれをラボスクールとして多くの人たちが使えるフレームワークを開発して、オープンにしていきたいという考えを持っています。とても楽しみですね。

 

今回の訪問をきっかけに「ティール組織」を読み直しましたが、同書でティールな学校として紹介されているベルリンのESBZという学校に対する記載とこの学校の印象が非常に似通ったものだという印象を受けました。上述したフォーラムや、毎週水曜日に学校外に出ていくWeekly Excursion、非暴力コミュニケーションを学ぶクラスなど、ESBZを直接お手本にしたのかもしれないと思われるようないくつかのカリキュラムもありましたが、下記に引用するような空気や文化は、まさに私がこの学校で感じたことでした。

 

「ESBZへの訪問者は、学校の専門外にいるときから他の学校とは違う何かを感じるかもしれない。それは子供たちの存在、子どもたちの立ち振る舞いにすでに現れている。生徒たちの(中略)何かを決意し、集中している雰囲気をかもし出して教室にまっすぐ向かう姿は、とても楽しそうに見える。心はすでに何かのプロジェクトのことを考えているのだ。思春期特有の気取りや、格好良さを誇示し合う雰囲気も一切ない。ESBZは創立理念の中で、子どもは一人一人が個性的な存在で、だれもがほかの人に貢献できる才能を持ち、全員が人として価値があり、評価され、必要とされていると主張している。どことなくではあるが、子どもたちが学校に歩いて行く様子を見ると、創立理念が単に言葉なのではなく、子どもたち自身の体や姿勢、態度の中に現れているように見える(P158)」

 

教育のエビデンスは数十年後でないと分からない、という考え方もできますし、実際に数字となって出るのは30年後、もしくはそれ以降かもしれません。でも、穏やかで幸せそうでありながらも、前向きに数々のチャレンジに向かっていくこの学校の子どもたちの様子をみていると、この子たちの様子そのものが「エビデンス」なのかもしれない、そんな風に感じた一日となりました。

では今日はこの辺で。次は個別化と探究学習を両立させ、本質的な探究学習の公教育での実現にチャレンジするNew Schoolについて書いていきたいと思います。

藤原さと

 

◆参考資料

「ティール組織」フレデリック・ラルー 英治出版

The Adventure of Teal Learning

 

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