大統領選の1年間~アメリカの小学校では何を教えたか?

藤原さとです。

トランプ大統領、とうとう就任しましたね。昨年11月のトランプ当選時にブログを書き、その後、続編を書こうと、マルクスの資本論などの本と格闘していたのですが、ちょっと時間がかかりすぎてまして・・。いつか格差の問題とこれからの社会については落ち着いてまた書きたいと思いますが、今回、せっかくなので私の記憶の新しいうちにこの一年を振り返って、アメリカの小学校の現場で大統領選挙にかかわるどんな授業が行われていたか、振り返っておきたいと思います。

【スーパーチューズデーから始まる学校での選挙の話】

ご存知の通り、アメリカ大統領選は4年に一回ですが、学校でその選挙の仕組みなどについて習ったり、話をしたりするのは、娘の学校ではスーパーチューズデーからでした。

スーパーチューズデーは大統領選挙がある年の2月または3月初旬の火曜日に行われ、今回は昨年3月1日でした。その日は多くの州で同時に予備選挙が開催され、一日で最大の代議員を獲得することができる日です。この時はまだ民主党、共和党共に大統領候補としての指名が決まっていないので、候補者はこの日を上手く乗り切る必要があります。

娘の通っていた現地の公立校では、この日に選挙人制度などこれから一年間どんなスケジュールとプロセスで大統領が選出されるのかを教えてもらって帰ってきていました。

また、たまたま当日に訪問した私立校では、小学校2年生のクラスで、各国のリーダーの選び方、政府の役割などについて、数々のワークをしていました。当日は教室でも選挙をするととのことで、教室内には手作りの各候補者のポスターが飾られ、段ボールで作られた投票ブースと投票箱が置かれてました。子供たちに囲まれて、「選挙していって!!」と頼まれたので、投票用紙に書いてある候補者の質問をしたら、「クリスクリスティーは撤退したんだよ!」「彼は今はトランプを支持してるよ!」「ジェブブッシュも撤退したよ!」とみんな口々に教えてくれました。クラスには、各国のリーダーの選び方を調べて書いた模造紙が貼られてました。まだ誰もトランプが大統領になるなんて思っておらず、リベラルな人はサンダースに期待をしていた頃です。

【秋になると】

夏休みにトランプが正式に共和党の候補者として指名され、秋に新学期が始まると、いよいよ選挙の話も盛り上がってきます。

娘のクラスでも(小学校3年生)数回模擬投票が行われました。

そんなある日、娘が「トランプってそんなに悪い人なの?」と聞いてきました。どうやら模擬投票の投票用紙のトランプの名前の上に、お友達がトランプの文字が消えるほどにバッテンをつけまくっていて、どうしたのか聞いてみたら、「絶対にトランプになんか選挙しちゃだめだからね!」と怖い顔をして言われたそうです。そのお友達はブラジル出身。他の学校でも、イギリス人の友達が「トランプが当選したら私はもうアメリカから出なきゃならないんだって」などという子もいたりして、いろんな情報が子どもの間でも錯綜していたようです。

そして、秋口には“Government”をテーマにしたプロジェクトを行いました※。特に三権分立(Separation of Power)をテーマにワークを行っており、立法(Legislative Branch)における上院と下院のこと、行政(Executive Branch)における大統領と副大統領の役割、司法(Judicial Branch)の最高裁判所、連邦下級裁判所の役割を学んでいました。下の写真は司法(Judicial Branch)のリサーチを担当して発表した時の娘のボードです。

英語がまだまだの娘には、少々難しいテーマだったのでプロジェクトを少し手伝いましたが、三権分立の前はどんな社会だったのか、ひどい王様になってしまったら国はどうなってしまったのだろうか、ヒトラーの独裁はどうして起きてしまったのか・・などを親子で話し合うことができました。(前段階として、自宅では学研マンガ「世界の歴史」を全巻一緒に読んでいます。とてもおすすめです!)

本人このプロジェクト中はピンときていなことも多かったようなのですが、今回の就任式で自分の調べた最高裁判所長官(Chief Justice)のJohn Robertsがトランプ大統領の宣誓をリードしているのを見て、リアルに3つのBranchが一緒に協力しながら、アメリカという国を運営していくのだな、と感じたようでした。ニュースで流れるような言葉もこのようなプロジェクトをやることで覚えていくのでとてもいいことだなぁ、と思います。

【選挙、そして大統領就任時】

そして、昨年11月29日。大統領選でトランプが勝利します。この日の前日、学校では全校をあげて、模擬投票が行われていたのですが、勝利の結果が分かった当日、予定されていた学校の模擬投票を開票するイベントが、急きょ取りやめになりました。

実は、娘の学校もクリントンが勝つと思っていたようで、学校も心の準備ができていなかったようです。。正直言って、子どもには到底聞かせられない言葉と考えをテレビで吐く人間が、大統領に選出される、という事態を受けて、先生方もどのように説明していいのかわからず、ネットでは「こういう風に説明してみましょう!」というような情報やコラムが飛び交いました。(なお、数日をおいてから、この模擬投票の開票が行われ、結果はクリントン勝利でした)

そして、昨日1月20日。いよいよ大統領就任です。学校では、(アメリカの小学校に通わせている方はほぼ全員ご存知だと思いますが)Scholaticという子どもむけの出版社が、教室で使えるような、子ども新聞のようなものを出していて、就任式の直前は、大統領の就任の日に何が起きるのかというコラムをみんなで読んでいました。(なぜか画像が縦に変更しても横に表示されるようです。すみません)

そこにはっきりと「トランプの不法移民を国外に追放するという考え方に賛同できない人が多く、全米各地でデモが予定されている」というような文章が書かれていて、驚きました。もちろんそのあとに、「トランプの雇用を増やす経済政策に賛成する人もいる」・・・とは書かれているのですが、国の違いをこういうところで感じます。

そして、大統領就任当日は、みんなでリアルタイムでその様子をテレビで見て、「トランプはこれからの4年間なにをするか想像してみよう!」というテーマで、話し合ったそうです。

【市民教育の在り方は国によって違う】

上記のように、こちらの子どもは、政治のことも学校でも家庭でも話す機会があります。そして、その導きはやはり学校にあります。家で「トランプって悪い人なの?」と聞かれてしまえば、親も返事の仕方を考えなければならないので。。

アメリカは、びっくりするほど小さなころから歴史を学びます。小学校2年生くらいでも、歴代の大統領について調べたり(それぞれの子が自分の担当の大統領を調べます。娘はモンロー主義のジェームスモンローが担当でした)、ボストンティーパーティ、奴隷制度、西部開拓、当然マルチンルーサーキングのような歴史的人物などに関する文章をどんどん読んでいきます。難しい言葉も多くて、正直本当にこれ2年生、3年生の学ぶ言葉なの?と思うことが多いです。こういうことから、ある意味ナショナリズムも植え付け、「アメリカ人像」のようなものを追い求めていくようです。

また、ちょっと触れておくと、12月8日の真珠湾攻撃のあった日は、アメリカにとっては重要な日でこのことについて学んでいました※※。この日は娘は学校で辛くて話を聞いていられず、文字通り耳を手で塞いで、過ごしたそうです。そして、「私が日本人だって知っていて、あの授業をするのはフェアではない!」とプリプリして帰ってきました。

それぞれの国のこうした政治に関する学校での扱いは国の成り立ちや歴史を反映するもので、非常に見ていて興味深いものです。ヨーロッパというのは、やはり市民が大変な努力をして血を流しながら自由を勝ち取っていった歴史があるので、きっと、そのように教育されていると思います。日本も政治の話がタブー視されたり、戦争を「してはいけないもの」という前提に立って学んだりしますが、やはりそれには歴史背景が大きく影響を与えているのだなぁ、と思います。自分たちの歴史を振り返りつつ、どういう価値観を持ってこれからの日本を構成する子どもたちを育てていくのか、という観点からこれからの教育を考えていけるといいですね。

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さて、大統領の就任演説、私も見ていましたが・・・・、品格というものが感じられず、心を揺さぶられるものもなくて、とてもがっかりしました。。もうちょっとマシだと思ったのですが。。

ちなみに、政権の顔触れも決まってきて、教育を担当する教育長官は、Betsy DeVosという共和党に多額の献金をしている大金持ちでチャータースクールの仕組みを推進している人です。チャータースクールの仕組みは私も優れた側面があるとは思いますが、それだけでアメリカの公教育の問題が解決するわけでは当然ないので、どうなるんでしょうか。見守っていくしかありませんね。

では今日はこの辺で。

※娘は3年生からプロジェクトの多い私立に転入していますので、このようなプロジェクトをやっていますが、公立で同等のものをしているかわかりません。でも、公立でも模擬投票は複数回行われ、選挙や就任の節目の時にはきちんと何が起きているのかを学びます。

※※余談ですが、アメリカは今でこそ、他の国の紛争にちょっかいを出す国というイメージがありますが、パールハーバーまでは孤立主義(それこそジェームスモンローですね!)で他の国同士の紛争や戦争にはほとんど関与してきませんでした。それが一転して態度を変えるきっかけになったのがパールハーバーです。それだけアメリカ人をとことん怒らせた事件なのですよね。なので、扱いも日本の原爆の日に近いものがあります。逆に、オバマ大統領が広島を訪れたときの新聞の扱いがあまりに小さかったりと、こちらにいるといろいろ考えさせられるものです

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