アメリカからみた選挙戦と格差のない社会に向けての教育について(1)

 

藤原さとです。

アメリカ大統領選。最後までガタガタしましたが、トランプが勝ちましたね。

今回の選挙、アメリカの格差問題が限界にきているのだと痛感させられました。

あれだけの暴言を吐き、とても聞いてはいられない差別発言を繰り返し、現実的にはあり得ないような政策を提案する人が大統領に選出される。クリントンはメール問題を含め、特に後半は「信頼できない人だ」というイメージがしっかりついてしまったので、大変苦戦しましたが、それにしてもです。

 

<アメリカの現状>

実は、アメリカに住んでいると、今回のトランプ勝利は、実は驚かない結果でもありました。私の住んでいる地域は治安も安定し、比較的所得層の高い人が住んでいる町ですが、少しでも車を走らせると、ボロボロの家が連なる町や、トレーラーハウスが並んでいる地域があります。私たちの近所も、基本はいい地域ですが、2軒先のおうちのお父さんは救命救急士。家族のうち、誰かが大きな病気やけがをしたら、医療費が払えないので、奥さんの生まれ故郷であるカナダに即移住するといっています。娘の一番の友達のお父さんは最近のエネルギーマーケットの不振で今年の春に会社を解雇され、半年仕事が見つかっておらず、やっと見つかった仕事も遠い場所で家族バラバラに住んでいます。

医療費の問題は特に深刻で、アメリカに来た時に家族三人の歯科検診をしただけで、900ドル(約10万円)の請求がきました。この時は保険で支払ったので自己負担はなかったのですが、その後、娘の乳歯がぐらぐらしていて取れかけていたので、「取りますか?」と聞かれ、取ってもらったら、100ドル(約1万円)請求され、しかも保険が効かずに腰を抜かしました。こちらは、メディケア(高齢者医療保険)、メディケイド(低所得者層向け保険)という公的保険はあるのですが、どちらにも該当しない場合、民間保険もしくは、オバマケアで導入された、HIM(Health Insurance Marketplace)に入ります。でも、HIMも保険料が高くて、いまだに無保険の人が10%弱いる状況です。ちなみに、私の町で住むような人が払う保険料は、そんなにカバー率が高くはないものでも一人当たり400ドルくらいはかかるそうで、家族の中で、2-3人保険に入ると、1000ドルを超える保険料が毎月出ていく計算です。

また、こちらは私立大学に行こうとすると、年間300万円を余裕で超える学費を覚悟しなければなりません。ハーバードなどのトップ校は約500万円します。それに加えて、自宅から通えない場合は別途の生活費が必要です。4年間で1000万円から2000万円、場合によってはそれ以上。子供が2人、3人といたら絶望する金額です。州立大学に行っても、州の在住者でも”年間”100万円、州外の学生だと200万円以上は覚悟です。そもそもよっぽどいい大学に入れないと、その後の収入に見合わないのは日本と一緒なのですが、大学入学するための競争も熾烈で、州内でそれなりに評価されている州立大学に入ろうとすると、公立高校でトップ10%以内の成績が必要です。

正直言って、アメリカで楽しく暮らすには、一体どのくらいお金があればいいんだろう・・とため息が出ます。少なくとも私自身はこの国で力強く一人で生きていけるイメージはつきません。今のアメリカでは、低所得者層やマイノリティは、不十分ながらも施策がありますが、こうした社会保障から完全に取り残された、低所得者層でもマイノリティでもなく、金持ちでもない人にとって、アメリカはまさにホープレスな国です。(もちろん、低所得者層、マイノリティにとってもハッピーな社会ではありません)

こうした人たちの悲痛な叫びや怒りを品が悪い言葉ながら、代弁し、心を揺さぶらせてきたトランプ。車を走らせて通る、古びた小さな家々を見ると、これまで一生懸命生きてきたのに、安心して暮らせず、子供たちにも十分な将来を描いてあげられない人たちの悲痛な叫びが聞こえるようです。これだけ多くの人がこれだけ不満なのか。格差がある一定上に広がると不安が増し、社会が不安定となる見本のようなもので、この大統領選で問題が噴出したように見えます。

 

<世界的に注目される格差の問題>

この格差についてですが、ある意味、ここ数年のホットイシューでもあります。2013年にトマ・ピケティにより「21世紀の資本」が出版されたのは記憶に新しいですが、その後、発展途上国における貧困・健康の問題に取り組んだアンガス・ディートンが2015年のノーベル経済学賞を受賞。同じく2015年はアンソニーアトキンソンが「21世紀の不平等」を出版。いわゆる格差問題のブームともいえる状況になったのが2015年です。

2015年に上記のような現象が起きたことに関して、日本での格差問題を長年研究されてきた橘木俊詔氏は「21世紀日本の格差」という本で、ピケティ、ディートン、アトキンソンの三者の研究が注目された背景には、世界的な経済格差と不平等がもはや抜き差しならない問題になっているという広範な意識があると指摘しています。アメリカでは現実問題となりました。日本もその例外ではありません。

 

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<日本はどうなのか?>

日本は、比較的格差の少ない国だと思うかもしれませんが、ジニ係数などで見ると、アメリカよりはましなものの、フランスやドイツなどより格差は大きく、よく言われているとおり、日本の貧困率は、15%。クラス30人いれば、5人くらいは相対的貧困ということで、これはOECD(2015年)の調査で加盟国34か国のうちのワースト4位です。

日本の社会保障はアメリカ型なのか欧州型なのかという以前に、戦後ずっと人口構成の変化がプラスに作用する人口ボーナス期にあり、高度成長期もあったので、たまたまあまり頭を悩ませなくても回っていたのが、マイナスに転じるオーナス期に突入し別の意味で問題が噴出しています。重ねて、経済的にも次の一手が見えず、成長の軌道が見えません。

財源が非常に厳しくなっている状態の中で、医療、介護、教育、その他の社会保障などの間で、ゼロサムゲーム以下の熾烈な予算獲得競争が繰り広げられています。

残念ながら、少ない財源の中でどう痛み分けをするのか、そうでなければ、こうしてアメリカのように格差が広がり、どこかで爆発が起きるのか、、そんなところに来てしまっているように見えます。アメリカの現実は、日本の将来かもしれません。

 

<次回に向けて>

ちょっと文章が長くなってきてしまったので、、本稿2回に分けて投稿したいと思います。2回目は、先立つものがない中で、どうやったらよりよい社会が実現するのか。そういった社会を実現するために教育の果たせる役割ってなんだろう?そんなことを書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

では今日はこの辺で。

 

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