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2016.09.22

 

藤原さとです。

前回のブログより、かなり・・・間が空いてしまいました。夏に日本に一時帰国し、アメリカに戻ってから早くも1か月が経とうとしています。

10月からこたえのない学校としては、STEM(科学・技術)×探究をテーマとした小学生向けのキャリアプログラムと、いよいよ大人向けの探究プログラムを始動しますが、今日はそのどちらにも関わることについて書いてみたいと思います。久しぶりなのに、ちょっと辛口です。。

<批判的思考と探究力を育む科学教育とは?>

 

帰国中、スイスで国の科学教育カリキュラムをデザインする世界的に著名な教育心理学者から、科学教育と探究について学ぶ機会がありました(ABLE2016

スイスでは、スイス連邦工科大学チューリッヒという、多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた世界有数の工科大学があるのですが、そこが2011年より、300以上のクラスで認知科学の理論に根差した科学教育(特に物理分野)を実施するという大規模調査をスタートしました。現在5年目ですが、同じ児童を対象にあと15年追跡調査が続くそうです。

具体的には、小学生を対象に「浮き沈み」「橋の強度」「音の伝播」「空気圧」の4つのトピックを探究ベースに集中的な学習(60回の授業。標準キット使用)として実施。この授業を受けた子供たちは受けなかった子供たちと比べて密度や浮力をはじめとした科学概念の理解に驚くほどの進歩を見せ、教えられた概念だけではなく、科学実験の基礎であるどのように変数を制御するのか、そしてどう変数を選んでいくのかという必須のスキル・リテラシーを非常に良いレベルで習得したそうです。

この話は、世界前線の「探究型学習」というもののデザインが認知科学の基礎を踏まえたものであることが良く分かる、非常に示唆に富むものでした。例えば、下記のような部分です。

 

・学習のはじめに、必ず初期知識(Initial Knowledge)を確認する。

・科学実験を実際に行いながら、経験を重ね、構築していくのは「概念」である。

・その上でどのような概念変化(Conceptual Change)が見られたかを確認する。

 

同時に私がモヤモヤとしつつも言語化できていなかった下記の部分が非常に明確に示されました。

 

・子供たち(大人も!)実は科学知識に於いて、多くの誤解(Misconcept)をしている。たとえば、なぜ鉄の船が浮くのかという問いに対して、密度と重さを混同するなどの初歩的な間違いをする。

・それを様々な実験によって、“自ら”それが誤解(Misconcept)であるということに気が付いていくこと、そこでその間違った考えを棄却していくところ、つまり失敗を重ねながら真理に近づいていくそのプロセスが重要。

 

そして、学習者のMisconceptはどのように再編成され(Restructure Knowledge)、変化するのか(Change of Knowledge)ですが、以下のようなステージがあり、それぞれのステージを確認するための設問が設定され、チェックしていくそうです。ちなみにこのプロセスはリニアではなくて、紆余曲折を経ながらScientific Profileに近づいていくそうです。

 

  • 誤った知識 (Misconception Profile)
  • 断片化した知識 (Fragmented Profile)
  • 漠然とした知識 (Indecisive Profile)
  • 科学の前段階の知識 (Prescientific Profile)
  • 科学的な知識 (Scientific Profile)

 

今まで私たちのプログラムでは科学的正解のあるようなものをつくったことはなく、どちらかというと「一つの答えがない」ものに対して、グループで共通解を見出せるかチャレンジしていくようなものだったので、MisconceptをScientific Profileに引き上げていくという内容には目からうろこでした。

 

 

<日本の科学教育の問題点>

 

さて、今手元に小学校3年生の「理科」の教科書がありますが、それを見ていると(批判を覚悟で書きますが)、上述のような“探究的学び”とは違う構成になっていることに気が付きます。

一応、冒頭には“理科の学び方”とあり、「仮説」→「実験」→「考察」のステップを踏みましょう、と言いたいのではないかというページがあります。しかし、その後のほとんどのページで「仮説をたてる」部分に全くフォーカスが当たっていないのが非常に気になりました。

たとえば、「○○を観察しましょう」「○○を作ってしらべましょう」「○○すると××になるでしょうか?」と、調べ学習としての手順、実験・観察の手順が中心です。しかもそれぞれの手順には非常に丁寧な説明がある一方で、そもそもこの観察は何のためにするのか、またほかの方法について考えてみる、などの余地が極めて少ないものになっています。

「これはなぜだろう?」と気になって学習指導要領を見てみたら、下記のような言葉が繰り返し使われていることに気が付きました。

 

・○○についての見方や考え方を養う

・差異点や共通点に気付いたり比較したりする能力を育成する

・基本的な見方や概念を柱とし・・

 

なるほど。。つまり、少なくとも現時点での学習指導要領では、概念は自ら構築するもの(構成主義/Constructive Approach)ではなく、だれかに教えてもらうものだというスタンスなのですね。

 

確かに、手順や実験につかうもの、報告書式まで細かく指定すれば、発表内容として、見た目は素敵なものが短時間でできるでしょう。子どもも生き物に触れたり、絵を描いたり、楽しいでしょうし、言われた通りの手順にのっとってやりさえすれば、ほとんどの子はうまくできるはずです。一見、アクティブにも見えます。しかし、そこによい仮説をたてようという努力、良い仮説がたたなかった場合の失敗と試行錯誤、自分の誤解(Misconcept)に自ら気付く機会、実験のデザインが悪かったために結果が出なかったことへのフラストレーションはありません。概念は上から教えてもらったほうが、手っ取り早いかもしれません。でも自ら概念を構築していくプロセスそのものこそが“科学”の醍醐味だったのではないでしょうか。

アウトプットをきれいに見せるために、そして、クラスのみんなが間違いなく実験を遂行するために、手っ取り早く概念を伝えるために・・と手取り足取りの内容になっていますが、それではかえって、子どもたちの思考力を発揮する場を失ってしまうのではないかと感じます。これが、次期指導要領で、議論され変化していくのであれば、いいことだな、と思います。

 

<社会に出てから必要な力>

 

私は、いわゆる“ド文系”ですが、社会科学も「仮説」をたてて、調査を設計し、検証・考察をする部分は一緒です。また、ビジネスでも世に新しく価値を問うなら、「このマーケットに進出したら、このプロダクトは売れるのではないか」「この人事システムで従業員のモチベーションは上がるのではないか」という仮説を立てながら仕事をするスキルは必須です。(ビジネスでは“筋のいい”仮説、という言い方をします) また、仮説がはずれてしまったら、よりよい仮説にむけて、根気強く内容を更新していく粘り強さのようなものも必要です。

そして、今回の公演のタイトルは“批判的思考と探究力を育む科学教育”でした。まさに批判的思考、つまり人とは少し違った視点から物事を眺めることであらゆる価値が生まれてきます。

こうした部分がずっぽり抜けてしまった状態で、プログラミング教育、STEM教育と言葉だけが踊っていても、“科学的思考”は育まれないのではないかと、危惧します。例えば、細かい手順を伝えられて、その通りプログラムしてできました、ということから何を学ぶのか。きちんと考えてから設計しないと、なにか違う方向に行ってしまうかもしれません。

自ら意味合いを構築していくプロセスは、一見遠回りに見えるものです。こうしたもどかしさに正面から向き合わないと、“探究的学び”というのは実現しないのかもしれません。

 

ちょっと辛口になってしまいましたが、今日はこの辺で。

 

stem-inquiry-based-learning

 

<参考図書>

“Transitioning to Concept-Based Curriculum and Instruction: How to Bring Content and Process Together“ Lynn Ericsson

「学びとは何か~探究人になるために」今井むつみ (岩波新書)

「探究する力」市川力 (知の探究社)

ABLE2013の講演はすべて下記のURLから見ることができます!

http://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/able/

 

<プログラムのご案内>

ポラリスこどもキャリアスクール4期 STEM(科学・技術)若干名追加募集中です!

http://kotaenonai.org/polaris4-stem-kokuchi-0905/

×探究・Learning Creators Lab (教育者向け探究学習プログラム)

http://xtanqlcl.kotaenonai.org/

 

 

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