home > Blog > 藤原 さと > アメリカの学校現場におけるIT導入の現状から見る日本の教育ICT導入に関する議論の特殊さ

 

こんにちは。藤原さとです。

 

先月日本に少し戻りました。基本的には「こたえのない学校」のプログラムのために戻ったのですが、併せて企業研修や講演などもさせて頂いていました。

その中で、「アメリカの教育」について話す・・というお題があって、アメリカで行われている授業や学校とコミュニティの関係、そしてアメリカの教育における社会的課題についてお話しました。そして、その中で、アメリカの学校現場におけるIT導入の現状(ICT:information and communication technology)についても少し触れましたので、当日言及しなかったことも含め、今回特にその内容について書きたいと思います。

まず、アメリカのIT導入の現状ですが、総務省のフューチャースクールなどで先端事例として挙げられているようなものは、こちらでは公立を含めた小学校から普通に導入されていると言って良いかと思っています※。下記にご紹介します。

 

アメリカの公立校での導入の現状

 

こちらでは小学校1年生くらいだとクリックやドラッグ&ドロップするだけのアプリケーションのゲームのような教材しか使いませんが、小学校2年生くらいになると、パソコンでのタイピングの練習が始まります。ブラインドタッチの練習です。(一方で手書きの作文も相当量こなします)

そこで、3年生になると徐々に自分で検索をして、プロジェクトに携わるようになり、4年生になると自身のパソコンを使って調査をした上で、パワーポイントやワードのようなソフトを使って発表するようになります。

5年生になると学校側もGoogleカレンダーを使って、小テストやプロジェクトの期日、学校の催し、などを個人に一斉連絡をし、本人が管理するようになります。また、学校で使った教材や画像、映像などはパワーポイントやワード、PDFやURLの形でGoogle Driveに先生が保存し、それをダウンロードして見たり、宿題や課題提出もGoogle Driveにアップデートするようになります。

schedulegoogle

googledriveG5

 

また、プロジェクト学習も一年生から何等かの形でやっており、4年生くらいになると、パソコンを使って調べものを含めた宿題や発表をしていきます。自宅学習を含め、子供がタブレットではなく、キーボードのあるPCを扱うことは必須となります。

また、教室内でどのように授業をされているかというと、大体プロジェクターとスクリーンがあって、ホワイトボードとの併用で授業が行われています。写真のような形が基本形です。逆に電子黒板はほとんど使われていないかと思います。

IMG_5689

 

先生は、基本自分用のパソコンを持っていて、自分で授業用のプレゼンテーション資料を保存し、それぞれの教科に応じて、学区での推奨コンテンツや、Youtubeなども含めた関連の映像教材を柔軟に使います。Kahn Academy のショートビデオも無料で公開されていますので、そういったものも上手に使っていると思います。教師にも基本的なITのリテラシーが求められていて、子供たちの興味を誘う有益なコンテンツを探してきます。

こうした小学校での基礎があった上で、中学・高校ではそのまま私たちが今、仕事で使っているようなパソコンの使い方をしていくことになります。

また、面白いのは、こちらは州の公立でオンラインスクールが運営されていて、小学校3年生からオンラインスクールで義務教育を受けたことにすることができます。もちろん無料です。教育区(Independent School District)レベルでバーチャルスクールを持っているケースもあります。なので、何らかの理由(病気、クラスメートとの関係の悪化、校内の環境悪化、スポーツや芸能活動、事業活動、単純に学校に合わない等)で、学校に行くことがベストの選択でない場合は学期単位でホームスクーリングに切り替えることが可能です。

また、Edomodoのような教師と生徒のコミュニケーションSNSや、CANVASのような学習マネジメントシステムも高校では普通に使われています。Edomodoは、今や全世界で190か国以上、6000万人以上(現時点)のユーザーがいる一大サービスです。

プログラミングに関しては、他の教育区では、専科(国語算数理科社会以外の体育、音楽、芸術などの枠)で、プログラミングを小学校1年生から定期的にやっている学校もあります。娘の学校でも定期授業はありませんが、Hour of Codeに参加するなど、Scratchを使ったプログラミングは少しやっているようです。4-5年生からはじまる有志のロボティックスのチームは人気があって、地元の他の公立校との対抗戦なんかもあります。

 

日本の教育ICT導入の現状に対する疑問点

 

私自身は教育ICTの専門家ではないのですが、アメリカで上記のような形でICTが取り入れられている状況を見ると、少々日本の現状に違和感というか、危機感を感じます。

確実に先進各国からICT化に大幅に遅れてしまっていることもそうなのですが、子どもたちの「学び」の質的変化の話を置き去りにして、「全児童1人1台タブレット」のような話が先行しているようにも見えて、とても気になります。

産業構造が変わったことによって、子どもの学びはどのように変化しなければならないのでしょうか? ICTはその学びの変化に対してどのような役割を果たすのでしょうか。

下記のデータを見ていただけるでしょうか。日本の13~15歳のデジタルデバイスの所有率ですが、各国の中で携帯ゲーム機の所有率が非常に高い一方で、ずば抜けてノートPCとデスクトップPCの所有率が低いのです。(データの詳細は参考URLをクリックしてください)

PC13-15

<参考:データえっせい http://tmaita77.blogspot.jp/2015/02/blog-post_25.html

 

みなさんも、自宅ではエンターテイメントやリラックスする時に主にタブレットを使い、仕事や複雑なことをするときにはPCを使いませんか?現状、タブレットでは長文の文章作成や、プレゼン資料作成、エクセルを使ったデータ処理や作図、またプログラミングのようなものはまだまだスムーズにできません。

もちろんアメリカでも協働学習にタブレットを取り入れてはいますが、しっかりリサーチ、分析をして、発表資料を作るときにはPCを使うのです。※※

子どもたちは、ゲーミフィケーションの入ったアプリや、タブレットでの簡単な操作は楽しむでしょう。でも、闇雲に設備投資のような目に見える部分を整えようとしたり、キャッチーなものに飛びつくのではなく、実際の「学び」の部分に注目していかないと、教育の質的変化がないのに、ハードウエアだけ入り、教員の方の負担だけ増えてしまった、、ということにもなりかねないように思います。

ICTで何をしたいのでしょうか。

今回、こちらIT教育の現状にも鑑み、日本のICT導入議論で外から見ていて気になる部分、を僭越ながらメモとして書き留めてみました。せっかくお金を使うなら、「意義のあるICT導入」がされることを切に望みます。

 

1) ICTを使う目的をはっきりさせる

上述の通り、日本での記事などを見ていて非常に気になっているのが、何のためのICTか、が充分に議論されていないように見える部分です。本来ならば実現したい教育があって、そのツールとしてのICTのはずです。ICTはどの場面でどのようなシーンで使うのでしょうか。何のために?それは今の授業より確実に内容が良くなるものでしょうか?たとえば、協働学習に使うなら、どのようなシーンでどう使うのか、子どもは何をするのか。もし教科書の内容をそのまま教えるだけだったら、ICTなんて無理に使わないほうが効率的かもしれません。

 

2) コスト意識を持つ

省庁などのICT関連事業の報告のもので、正直ここまでの投資が必要なのか、と感じるものがあります。最低限先生が一台ずつPCを持って、クラスに一台パソコンがあって、プロジェクター、簡易スクリーンがあるだけでも学習内容を激変させることは出来ると思います。つまり、足りていないのは、設備投資ではなくて、先生自身がネット上に溢れる情報に対し、リテラシーを持って適切に編集し、子供たちへの授業に意義のある活用ができる文化と能力を持つこと、またそれをサポートするマネジメント体制ではないでしょうか。重いソフトを使うなどしなければ、パソコンもプロジェクターも今は3万円台で充分なものが買えます。

 

3) ITの技術革新の速さを考慮に入れる

世界では、多額の資金がEdTechに流れていて、莫大な投資のもとでとびきり優秀なエンジニアが多数関わり開発しているITを使った安価な、もしくは無償のサービスが沢山あります。もし予算に制約があるのであれば、無理して高価なシステムを購入しなくても、既に無償で使え、且つスタンダード化しているGoogle クラウドサービス(スケジュール、ファイリング、アンケート)など、割り切って無償のものを使っていく・・ということも検討の一つに入れたらいいのではないかと思います。こうしたものだけでも相当のことができ、また、そういったサービスはどんどん機能が向上していきます。不必要にハイスペックで特定のソフトやハードウエアしかつながらないようなものを採用してしまうと、数年後には時代遅れになってしまう危険性があると感じます。

 

4)先生はやはりもう少し・・・ITに強くなって頂きたい・・です。

(ここは非難を覚悟して書きます!)ITに強くて、非常に上手にITを使いこなしていらっしゃる先生がいらっしゃる一方で、一般論として、学校の先生はITにやはりちょっと弱いかな、、と感じます。やはり、先生は子どもたちのお手本となる限りは、最低限のITリテラシーが必要です。このリテラシーが無いと、一見操作性が良いように見えて、実は使いにくいものを導入してしまったり、時間や手間ばかりかかって、子どもの学びにつながらないようなITの使い方をしてしまう危険性もあります。ITの利用者のリテラシーが上がらないと、ITサービスの質も良くなりません。

 

5) ICTをきちんと使える環境を整えるほうが先

Kahn Academy やAlt SchoolSteve Jobs School などで使われているような、個別学習支援プログラムや個人の学習進捗をトラックするサービスを見たりすると、うわ~と思うこともあるかと思いますが、いまの一般的な教室の現状に鑑みると、たぶんその前にやるべきことが沢山あるような気がします。

寧ろ、先に考えるべきは、ITを支える土台部分でしょうか。学校にきちんとしたシステム担当者がいて、用務員さんや事務局のレベルで、LANの繋がりが悪い、とかプリンターが壊れちゃったとか、PCの調子が悪い、新しいソフトのインストールの仕方が分からない・・などのケースにすぐ対応できるようになっているか(専任じゃなくて充分です!)、先生方がITに慣れるための研修や日々のサポート体制があり、教員の方が安心して、気持ちよくITを使え、その本当の良さに気付いているか、です。もっと言うと、先生が日常の業務でPCを使いこなして、業務を効率化することのほうが先なのではないでしょうか。導入するものが複雑であればあるほど、電子黒板を移動させるたびにコードを踏んづけたり、設定をやり直したり、子どもが乱雑にPCをいじって壊すなど、日常茶飯事に何かが起きます。ただでさえ忙しいのに、それを先生が対応していたら、気が狂っちゃうと思います。

 

・・・ということで、今回は少々辛口(且つ長いっ!)のブログになってしまいました。

 

私自身は、特に小学校低学年くらいまでの段階でむやみにITを入れる必然性はあまり感じませんし、ブラックボックスからいきなり答が飛び出てくる検索をする前に、実際の本を読んだり、辞書をひいたり、実際に鉛筆で書いてバッテンをつける、もしくはフィールドワークなどで、リアルな肌感を持ってメタ認知的な能力を身につけることも重要ではないかという個人的な意見を持っています。(もちろんやりたい子がいれば、年齢に関係なくやってよいと思います!)導入が命題になってしまい、不必要なところにお金をかけて、肝心なところが抜けている、、ということが起きてしまうと、勿体ないです。

一方で、社会では溢れるような情報の中から、出来るだけ信頼できる情報を探し出し、その情報を自分なりに編集して意味合いのあるものに整理する力が必須になっています。産業が高度化し、与えられた情報範囲だけで最適解を出せばそれでよかった時代は終わっています。情報リテラシーがないと、1次情報と2次情報をきちんと区別して扱えなかったり、信頼性の低い情報ソースなのに良く確かめもせずに信じてしまう・・というようなトラブルも起きかねません。今でも図書館に行かなければ取れない情報、購入しなければ取れない情報、実際のヒアリングをしなければいけない情報がありますが、ICTを取り入れることで、その使い分けが義務教育の間にきちんとできるようになっていることはとても大切なことだと思います。

また、パワーポイントだけでなく、映像を編集できたりプログラミングが出来たりすると表現の幅が格段に広がります。

更に、先にご紹介したバーチャルスクールのようなものも、今の画一的な授業が合わない子がいるのは当然だし、そこに合わない子を異端視することなく、義務教育に取り込んでいける・・という点もITの威力だと思います。こうした取り組みで、学校内で居心地が悪く、生きづらさを感じている子どもたちが、一つの選択肢として堂々と生きていける世界が実現されていけばいいなぁ、と思います。

ICTは適切に使えば、非常に大きな効果をもたらすものです。

来年の3月はSXSWeduという、オースチンで行われる教育イベントに行きますので、そこでまた新しい教育ICTのサービスや、教育の在り方について思うことがあれば、お伝えしていきたいと思います。

 

<参考ブログ>

デジタル教材に限界あり? アメリカ公立校でのデジタル教材との付き合い方

http://kotaenonai.org/blog/satoblog_141016_digitalkyozai/

子供の個性を認めるのはさすがに得意!?アメリカの公立小学校の新学期

http://kotaenonai.org/blog/satoblog_150829_schoollife/

アメリカでの習い事(1)チルドレンズミュージアム

http://kotaenonai.org/blog/satoblog_childrensmuseum/

アメリカ公立小学校 一年上期の授業内容

http://kotaenonai.org/blog/satoblog_141224_usschoolg1/

ウチの子供は問題児!?アメリカでの解決方法

http://kotaenonai.org/blog/satoblog_ochikobore_141107/

アメリカでの学校選び

 http://kotaenonai.org/blog/satoblog_150508_usschool/

アメリカ公立小学校の新学期

http://kotaenonai.org/blog/satoblog_140830/

 

※アメリカの教育はもともと州単位で管理されており、州が違えば内容も大幅に変わることもあります。今回の事例はテキサス州ConroeISDでのものをご紹介しています。ただ、今回、他の州もいくつかヒアリングを行っていますが、こちらは全く特殊なケースではなく、他の州でも一般に言ってITは日本の平均値から考えると相当に導入が進んでいる、という理解でよいかと思います。

※※ここ数年で、タブレットもキーボードのつけ外しができ、OSをタブレットモードとデスクトップモードに切り替えることができるようになりましたが、ここでいうPCはタブレット+キーボードでデスクトップモードで使うのであれば、PCとしてお話ししています。

 

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