「音楽家はどうやって音楽を創っている?」プログラム開催報告

 

5月14日(日)、ポラリスこどもキャリアスクール5期「ART」、第二回となる「音楽家はどうやって音楽を創っている? 自分らしい表現ってなんだろう?」を実施しました。

ポラリスナビゲーターは声楽家、中村香織さんです。中村さんは、時代や様式、国や言語の壁を飛び越えて音楽をとらえる活動を続けてきました。

➡中村さんのインタビューはこちらから。

今回は、中村さんの伝えたいメッセージ「無限の選択肢から意志をもって紡いだ音から音楽は生まれる」をセントラルアイディアとして、色々な角度から「音楽って何だろう?」「音楽と音楽でないもの違いは?」と探究していきました。

下記、プログラムの詳細をお伝えします!

 

【4分33秒って何?】

前回、俳優の植野葉子さんと一緒に、「自分を知る」をテーマに演劇のワークショップをやったみんな。テーマや自分のことについてグループで話をすることから始まります。今回は音楽がテーマです。家から楽器を持ってくる人もいます。三味線やギター、バイオリン、ハモニカなど、どんなプログラムになるか楽しみですね。

まず、メンバーの半分が自分の持って来た楽器やこたえのない学校で用意した楽器で演奏し、半分が聴衆となります。

 

 

今、配られたばかりの楽譜で今決めたばかりのメンバーで、すぐに演奏なんてできるのかな? 五線紙は書いてあるけれど音符がない!? これをどうやって演奏するんだろう。キョトンとした顔で途方にくれたような顔をしている人も。でも、指揮者がタクトを振り始めるとみんな真剣な面持ちで楽譜を見つめます。1楽章が終わって2楽章、3楽章・・・4分33秒間の演奏が終わりました。

 

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実は、「4分33秒」は、「“TACET~休み”だけ」でできている楽曲です。聴衆を前にして、指揮者は指揮台へと登り、演奏者はしっかりとステージに出て演奏姿勢へと移ります。ところが、楽譜に書かれているのは“休み”のみなので、結局、「4分33秒」の間、全く演奏する事無く曲は終了し、指揮者と演奏者は聴衆に対して一礼して終了するのです。

 

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全く演奏がない楽曲って何???

 

種明かしをすると、これは有名なアメリカ人の作曲家ジョン・ケージが作曲し、1952年に初演された「3楽章」から成る楽曲「4分33秒」です。

「4分33秒」の楽譜はこちらです。

 

<参考>ジョン・ケージ 4分33秒が評価される理由

http://shoichi-yabuta.jp/beginners/contemporary/john-cage-433.html

 

演奏中はどんな音が聞こえたのでしょう。みんなに聞いてみました。

 

「校庭で遊ぶ声」「みんなの息を吐く音」「楽譜をめくるカサコソした音」「いつもは気にしない音が聞こえた、眠る前の時計の音のように」「360度から音が聞こえた」「今までより音が感動的に聴こえた」

 

何も知らずに演奏して、そして聴衆になって、子どもたちはその間いろいろな音を深く聞いていました。そして、中村さんもびっくりしたそうなのですが、この答えこそが、ジョン・ケージの意図していたことなのです。

 

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「私は全部の音を書きました。その周りで起きる音も音楽なのです。」

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【不思議な楽譜!?】

 

つぎは違う楽譜が登場します。

今まで見たことのない楽譜。顔みたいなものが書いてある。赤ちゃん?老人?

 

女の子が指をくわえている絵らしい。その楽譜を中村さんが演奏します。楽譜にある空間も音楽になっている!なるほどこういう音楽なんだ!

 

猫や犬のけんかのような楽譜。これってどうやって演奏するの?

 

これも中村さんが演奏してくださいました。

こんな楽譜を初めて見た子どもたち。休憩時間も集まって楽譜を見ていました。

みんな、次は何が起きるのだろうとドキドキです。

 

 

 

いろいろな時代の水の表現】

 

さて、休憩の後は「水」というテーマにした いろいろな時代の音楽で聞いてみましょう。

ヘンデルやテレマンなどのバロック時代の作曲家からドビッシーやラヴェルの美しい音楽。そしてまたジョン・ケージの作品まで

 

ヘンデル(1685~1759)「エア」~水上の音楽より
https://youtu.be/4zfu0ZA_8_k

 

テレマン(1681~1767)「エオルス」~水上の音楽より

※エオルスには風の神、突風という意味もあります。
https://youtu.be/L3U04NsJkMo

 

マスネ(1842-1912) 2つの即興曲
1.よどんだ水
2.流れる水

https://youtu.be/8ue1gfGZ_QE

 

ドビュッシー(1862-1918)「水の反映」

https://youtu.be/LLbpQl1cCl8

 

ラヴェル(1875~1937)「水の戯れ」
https://youtu.be/J_36x1_LKgg

 

シベリウス(1865~1957) 「水滴」
https://youtu.be/uAlQu4Kk4j0

 

ケージ(1912~1992)「水歩き」

https://youtu.be/8vdFesRSfuk

 

子どもたちに感想を聞くとそれぞれの音楽から キラキラしたとび跳ねたりする水、ゆったり流れる川のイメージ、悲しい時の雨、楽しい冒険に出かける水、水の持つ様々なイメージを音楽で表すものを聴き分けているようです。

 

【さあ、作曲家になろう!】

ここから皆で作曲と演奏にチャレンジです。えー!!!作曲って自分たちでできるのかなー? グループに分かれて、作曲・演奏に入ります。

さっき見たこの楽譜。これは、アメリカの声楽家・作曲家である、キャシー・バーベリアンの「ストリプソディ」です。いつもみんなが見ているのは五線譜。いつも五線譜で、オタマジャクシの音符でなければいけない理由はありません。いろいろな国、時代にはいろいろな楽譜があるのです。みんなに渡されたのは真っ白な紙。

 

今回、この楽譜の作成の基本を中村さんに教えていただき、「緑・グリーン」をテーマに作曲・演奏します。楽器は持ってきたものを使ってもいいし、椅子でも布でもその辺にあるものをなんでも使って構いません。

グループごとに分かれてみんなで話し合います。

そもそも緑ってどんなイメージ?絵でも言葉でもいいから、表してみて。

新緑がきれいな今の季節は自然をイメージするかな?森とか鳥とか風とか、あるいはメロンや虫、色で緑という色をイメージすることができますね。

緑の持つイメージは(前回植野さんに教えてもらったように)形容詞でも表せるね。そうやってじぶんたちの中にある緑のイメージを膨らませて、じゃあ次にそれをどうしたらいいのかな?

それぞれのグループを回って 中村さんから「どういうストーリーが考えられる?」「どんな流れが出てくる?」「どんな音にしたい?」「それを表すとしたらどんな楽器?」と子供たちがイメージを音にできるようアドバイスを頂いて、どんどん作業は進みます。

 

かさこそという葉っぱの音は扇子の音で。楽器だけでなくビニール袋をパンとする音やマッキーのキャップをパチンとする音も使えないかな。子供たちの発想はとても自由です。

でも時間が限られるから そろそろルールを見ながら楽譜を書かなくては。

「1番最初の音を決めると良いよ」中村さんからまたアドバイスをいただきました。

楽譜を書くのはみんな大変そうだけど相談しながら音を出しながら共通のイメージに表している。16時になったら、今度は演奏の練習もしなきゃいけないですね。

 

【いよいよ発表!】

 

<1班>

三味線、ハモニカ、太鼓などを使って。途中でパーンという大きな音にびっくりします。足でビニール袋をつぶしたようです。そして最後はカチカチという静かな音で穏やかに終わる。

曲のイメージを聞くと、一度うるさくにぎやかにした後 最後は、自然の穏やかで静かな蝶などの生き物の営みを表したかったそうです。工夫したのは強く吹いたり、弱く吹いたり皆で合わせるところ。

 

<2班>

マラカス、ハモニカ バイオリン だけでなく お人形についている鈴や 紙を使ってかさかさいう音。小さくなったり大きくなったりして終わる。

工夫はみんなでいろいろな音を鳴らすこと。マラカスを穏やかにならすこと。ハモニカで低い音を出すこと。紙をこすってかさかさと音を出したこと。チームの選んだタイトルははっぱ君の散歩。なるほどです。森をイメージしたそうでサブタイトルは人生山あり谷あり?

 

<3班>

リズミカルに鉄筋や木琴のトントンというアクセント。リズミカルにぽくぽくした音。そこに椅子をガタガタした音が加わります。

イメージは静かな音を重ねて静かなもとから朝の元気な森になる変化。きこりが木を切っているイメージで椅子をガタガタ。虫の鳴き声なども感じられるように小川の音を強くすると他が聴こえなくなるので。でも風が時々強く吹いたりする感じも表したかったとのこと。

 

<4班>

扇子の音に始まってさらさらしたタンバリンの音、ぽくぽくした音、ハモニカの音、ウクレレの音。マッキーをこする音。いろいろな音がありますね。

工夫したのは自然に似ている音を探して、ビニールのカサコソした音は木の葉に似ている、マッキーをこするのは虫の音、など、そういう音を探すところだそうです。ウクレレの音もきれいに出すように工夫したそうです。

ウクレレの音って癒されますね。

 

 

【中村さんからの講評】

中村さんからは、それぞれの演奏後、下記のお話しをしてくださりました。

 

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今、とても感動しています。この短時間の中で、耳が360度ふわーと膨らんで、イメージも沢山膨らまして、みんなと共有した息遣いを感じることができました。感性が広がればいろんな音が聞こえてくる。そこに意思を持つと音楽が生まれるんです。

皆さんと同じ「グリーン・緑」というテーマで私が作曲してみた曲を演奏します。色をイメージしました。曲は穏やかに始まり、波がうねるように平和に満たされて、空間でも扇形にエネルギーが広がり最後には満たされて穏やかに戻っていく感じです。

いろいろな感性あり、五感を広げることはとても大事。いつも目を開いて耳を開いて感じること、自分でイメージを持って自分で表現する。それが自分を知ることにつながるのです。

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そして最初に見せていただいた楽譜、キャシー・バーベリアンの「ストリプソディ」をはじめから全曲通して演奏していただきました。

これからのみんなの毎日の音とのかかわり、音楽に対する感性、どのように変わっていくでしょうか。

 

中村さん、ありがとうございました!

 

<追加>

その後、中村さんから水に関する楽曲2つを追加でご紹介いただいたので、こちらも共有します!

★武満徹 (1930-1996)
水の曲
https://youtu.be/nqvnN7S1tLw

★Tan Dun (1957-)
水交響曲
https://youtu.be/TP-Zd1gqf3w

 

 

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